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第二百四十九話 「秘密とは、隠すためのものではなく、理屈屋を一日中発狂させる最高級の玩具である」という話

エドワード君、素直になれば?

三月。面談室の前。

重厚な扉が開いた瞬間だった。


待ち構えていたエドワード・ハミルトンが、

獲物へ飛びかかる猛禽の速度で拓海の肩を掴んだ。

翡翠色の瞳は、解析不能な数式を前にした演算装置のように激しく明滅している。


「タクミ。報告しろ。何を話した。三行でいい。いや一行でいい。

単語でもいい。私の名は出たか。私の将来設計図について教師は何と評価した」


「うるせぇな」


拓海はその手をひらりと外した。


「お前の悪口だよ、バーカ」


「雑すぎる。悪口だけで、お前がそんな顔をするはずがない」


「どんな顔だよ」


「……妙に晴れている」


拓海は一瞬だけ目を丸くし、それから口元を歪めた。

面談前にはなかった、どこか軽くなった笑みだった。


「鋭いじゃねぇか」


「当然だ。で、内容は」


「やーだね」


拓海は鞄を肩に掛け、踵を返した。


「俺の秘密だよ」


沈黙。

廊下を吹き抜ける春の風が、二人の間を通り過ぎていった。


「……秘密?」


エドワードは、その言葉だけを小さく繰り返した。

それは彼にとって、理解不能な概念だった。


契約なら整理できる。理屈なら分解できる。感情ですら、

時間をかければ分析できる。


だが、秘密だけは違う。

本人が開かなければ、誰にも触れられない。

どれほど財力を積んでも、論理を尽くしても、そこへは届かない。


拓海は階段を軽やかに駆け下りていく。


「じゃあな、ハミルトン先生。続きを知りたきゃ、あと百年修行しろ」


「待てタクミ! 百年は長い! 十分に短縮しろ!」


「知らねぇよバカ!」


笑い声だけを残して、拓海の姿は階下へ消えた。


エドワードはその場に立ち尽くした。


一人になった廊下。

石造りの床へ、午後の陽が長い影を落としている。


去る者には、次がある。

新しい場所。新しい時間。新しい未来。


けれど、”残る者”には。

ただ、そこにあるはずだった声の消えた空席だけが残る。


エドワードは、誰もいなくなった階段を見つめたまま、低く呟いた。


「……報告しろ、タクミ」


その声には、いつもの傲慢さも、自信もなかった。


「……お前の空白を、私以外で埋めるな……」


春の光だけが、静かに廊下を満たしていた。


■ジョージの機密ログ(三月:沈黙という名の壁)


三月。面談室前の廊下。

僕は見ていたよ。

ハミルトン様が、世界で初めて「知らされない側」に回って、途方に暮れているのを。


サエキ。

君が手に入れた“秘密”は、反抗であり、成長であり、そして少しだけ優しさなんだね。

何でも共有される関係は、時に甘い。

でも、言わないことでしか伝わらない想いもある。


ハミルトン様。

君は今、初めて知ったんだ。

どれだけ予約しても、サエキの心の中にある自由だけは、誰にも管理できないと。

その不安こそ、別れの予告編なのかもしれないね。


■ジョージ幕間(観測ログ:00-BAKA・情報封鎖編)

三月。校庭。


拓海(情報隠匿者):

「秘密ひとつでハミルトンを壊せる」と学習。急に強くなった。


エドワード(情報難民):

サエキの秘密という概念に脳がショート。MI6の盗聴技術導入を真剣に検討し始める。


ジョージ(観測者):

「いやー、最高だね(笑)」


(追記)

ジョージは、誰もいない談話室で、拓海がいつも座る椅子を見つめながら、

「……計算が合わない」

と小さく漏らしたエドワードを記録した。


「ハミルトン様。君がどれだけ空席を恐れても――

彼が残していった“秘密”こそ、まだ君たちが繋がっている証なんだよね(笑)」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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