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第二百四十六話 「追伸とは、本文より重要な一文を最後に置いて、男たちを混乱させる高度な罠である」という話

いや、菜摘ちゃんはそんな意味ない感じだと思うぞ拓海君

三月。ハーフターム明けの図書室。

ここ数日、拓海はスマホの通知音に異常反応を示していた。


ぴこん。


「……っ」


勢いよく顔を上げる。

通販アプリ。


「チッ」


ぴこん。


「……!」


学校連絡網。


「チッ」


ぴこん。


「……来いよ……!」


天気予報。


「死ね」


「タクミ」


向かいの席で本を読んでいたエドワードが顔を上げた。


「お前の情緒が、予約外の末期症状に入っているぞ」


「うるせぇバカ」


「潔く失恋を受理しろ」


「してねぇよ!」


「婚約破棄だったか」


「婚約してねぇって言ってんだろ!!」


その時だった。

寮の郵便係が図書室の入口から声を上げる。


「佐伯ー。日本から手紙」


拓海が椅子ごと立ち上がった。


「え」


「反応が犬なんだよ」


「うるせぇ!!」


差し出されたのは、小さな封筒。

海外便。丸い字。見慣れた名前。

差出人――菜摘。


拓海は奪うように受け取り、そのまま席へ戻った。

エドワードが当然のように隣へ移動してくる。


「寄るな」


「読む」


「読ませねぇ」


「なら朗読しろ」


「なんでだよ」


封筒の中には、バレンタインカードが一枚入っていた。

少し遅れて届いたらしい。

拓海は視線を走らせる。


『たっくん、この前ありがと!

今年はちょっと忙しいから、バレンタインはカードだけでごめんね(´・ω・`)

写真ほんとかっこよかったよ。

モデルみたいだった!』


「……モデルは盛りすぎだろ」


口元が少し緩む。

エドワードが即座に反応した。


「見せろ」


「やだ」


「今笑ったな」


「うるせぇ」


続きを読む。


『高坂君にも見せたら、「この人すごいな、モデルみたいだな」って言ってた(笑)』


空気が変わった。


「……高坂直哉」


エドワードの声が低くなる。


「名前を出すな」


「敵情視察だ」


「敵にすんな」


『で、「この人、菜摘の彼?」って聞かれちゃった (*ノωノ)』


拓海停止。


「………………」


一度天井を見る。

もう一度読む。


「………………」


三度読む。


「タクミ」


「黙れ」


『あ! もちろん、「違うよ!」って即答したよ!』


拓海、本日三度目の石像化。


正論だった。

事実だった。

誰も間違っていない。


だが、


即答。

その二文字が、なぜか胸に刺さった。

安心した。

同時に死んだ。


「……終わったな」


エドワードが静かに言う。


「うるせぇ」


「彼氏候補選考レース、開幕と同時にお前敗退だ」


「開催されてねぇよ!!」


だが、カードの端に小さく、書き足したような文字があった。

追伸。

拓海の目が止まる。


『ま、私は、昔から知ってるたっくんの方が好きだけどね!』


「…………ッ」


耳まで真っ赤になった。

カードを閉じる。

開く。

また閉じる。


「どうした」


「なんでもねぇ!!」


「顔が赤い」


「うるせぇ!!」


「心拍数が跳ねた」


「測るな!!」


エドワードがカードを奪い取った。


「返せ!」


数秒、読む。

沈黙。

さらに読む。

沈黙。


「……タクミ」


「なんだよ」


「私の『バカ』より、彼女の『好き』の方が浸透率が高いらしい」


「知らねぇよ!!」


「不愉快だ」


「理不尽だな!?」


周囲の生徒たちがざわつく。


「佐伯先輩、顔赤いぞ」

「恋文?」

「ハミルトン先輩、死んだ顔してる」

「同時多発事故だな」


「うるせぇお前ら!!」


拓海はカードを胸ポケットへしまった。

少しだけ黙る。

それから、誰にも聞こえない声で呟いた。


「……ちゃんと、言いに行かねぇとな」


エドワードだけが聞いていた。


「却下だ」


「なんでだよ」


「今、私が傷ついている」


「知るかバーカ!」


■ジョージの機密ログ(三月:追伸の威力)

三月。図書室。


僕は見ていたよ。

“違うよ”で一度殺され、

“好きだけどね”で蘇生するサエキを。

菜摘ちゃんは待っているだけじゃない。

彼に、自分を選ばせに来ている。

なんて恐ろしい幼馴染なんだろうね。


■ジョージ幕間(観測ログ:00-BAKA 感情事故編)

三月。廊下。


拓海:

彼氏ではない現実に沈み、好きと言われて浮上。忙しい。


エドワード:

高坂直哉への警戒を継続しつつ、追伸一行に敗北。


菜摘:

英国男子校を手紙一枚で壊滅させた女。


ジョージ:

「いやー、バレンタインって平和な行事のはずなんだけどね(笑)」


(追記)

「あーあwwww」

ジョージは、エドワードが真顔で

「追伸は禁止にすべきだ」

と呟いている瞬間を激写した。

「ハミルトン様。君がどれだけ彼を英国へ予約しても――」

「彼の心の“追伸欄”は、最初から埋まっていたんだよ(笑)」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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