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第二百四十四話 「近況報告とは、平和な雑談に見せかけて、遠く離れた男たちを大混乱へ叩き込む高度な情報戦である」という話

自分がいない場所でみんながいつまでも同じことをしているわけじゃないと気が付く回?

三月。放課後。図書室の片隅。

卒業写真の見本を手にした拓海は、椅子へだらしなく座ったままスマホを眺めていた。


エドワードに肩を固定され、半ば捕獲状態で撮られた、あの一枚。

不本意極まりないはずなのに、妙に写りは良い。


「……まあ、一応送っとくか」


誰にも聞こえぬ声で呟き、写真を添付する。


卒業写真。なんか撮らされた


短い一文と共に、日本へ送信した。

相手は菜摘だった。


数分後。

画面が震える。

拓海は何でもない顔で開いた。


何でもない顔のまま、途中で止まった。


『たっくん格好いい! 王子様みたいになってるね(笑)

やっぱり正装似合うなあ』


「……王子は盛りすぎだろ」


口元が少し緩む。

そのまま続きを読む。


『こっちは受験でみんな大変だよー!


最近は放課後まで学校残って、そのまま塾の日も多いし』


「へぇ」


『あ、そうそう。最近クラスの 高坂こうさか 直哉なおや君 とよく一緒になるんだ。

同じ大学受けるみたいで、塾もたまたま同じなの』


「……ふーん」


『数学得意で、わからないとこ教えてくれるし、

帰り遅いと危ないからって駅まで送ってくれるんだよ!優しいよね (^-^)』


「………………」


拓海の指が止まった。

もう一度読む。


塾。

同じ大学。

教えてくれる。

駅まで送る。

優しい。

頭の中で、不穏な単語だけが綺麗に整列した。


「どうした佐伯」


背後から声がした。


「顔が死んでるぞ」


「野生児が石像になってる」


いつの間にか周囲へ同級生たちが集まっていた。


「うるせぇ……」


そこへ、談話室の王者のような顔でエドワードが現れる。


「タクミ」


「来んな」


「心拍数が乱れている。何を見た」


「何でもねぇ」


「嘘だな」


エドワードは自然な動作でスマホを奪った。


「返せバカ!」


翡翠色の瞳が画面を走る。

数秒の沈黙。


「……タクミ」


「なんだよ」


「これは、婚約破棄だ」


「違ぇよバカ!!」


図書室に声が響いた。


「婚約など一度も成立していない!」


「では幼馴染協定の失効か」


「協定もねぇよ!!」


「東洋同盟の崩壊……」


「スケールでかくすんな!!」


周囲がざわつく。


「佐伯先輩、婚約者いたの?」

「高坂って誰だ」

「英国への宣戦布告では?」

「ただの塾友達だろ!」

「いや、駅まで送ってるらしいぞ」

「終わったな」

「終わってねぇよ!!」


エドワードはスマホを持ったまま、低く言った。


「この高坂直哉という男。調査が必要だ」


「やめろ」


「学力、家柄、移動経路、交友関係――」


「やめろって言ってんだろ!!」


「安心しろ。日本の諜報網を使う」


「どこにあんだよそんなもん!!」


ジョージが手を挙げた。


「いやー、一応あるにはあるけど(笑)」


「お前も乗るな!!」


騒ぎの中心で、拓海だけが少し黙っていた。


菜摘は、ずっとそこにいるものだと思っていた。

自分が帰れば笑って迎えてくれて、

何となく隣にいて、

何となくこれからも続く存在だと。


けれど違う。

彼女にも毎日があって、努力があって、受験があって、新しい人間関係がある。

自分の知らない場所で、ちゃんと時間は進んでいた。


海の向こうで、

自分がいなくても回る日常がある。

その当たり前が、なぜか少し怖かった。


「タクミ」


エドワードが珍しく静かな声で呼ぶ。


「……なんだよ」


「返信しろ」


「は?」


「今のお前の顔は、何もしないと後悔する顔だ」


「……」


「気に入らんが、その高坂某に先を越されるのはもっと気に入らん」


「なんだその理由」


「合理だ」


「感情だろバカ」


拓海はスマホを取り返し、返信欄を開いた。

しばらく画面を見つめる。

それから、ゆっくり打ち込んだ。


そいつに世話んなってんなら礼言っとけ。

でも、送ってもらうなら気ぃつけろよ。

あと、その写真の感想、もうちょい詳しく


送信。

周囲がどよめく。


「最後なんだ今の」

「嫉妬では?」

「佐伯先輩、情緒あるんだ」


「失礼だろお前ら!!」


エドワードは腕を組んだ。


「遅い」


「うるせぇ」


「次は三分以内に返せ」


「なんの競技だよ」


「恋愛防衛戦だ」


「参加してねぇよ!!」


■ジョージの機密ログ(三月:極東戦線異常あり)

三月。図書室。


僕は見ていたよ。

ハミルトン様が、日本の男子高校生一名に対し、国家レベルの警戒態勢へ移行した瞬間を。


サエキ。

君は“待っていてくれる幼馴染”が好きだったんじゃない。

君の知らない場所でも前へ進む、一人の人間としての彼女に、ようやく気づいたんだ。

少し遅いけどね。


■ジョージ幕間(観測ログ:00-BAKA 極東情報戦編)

三月。廊下。


エドワード:

高坂直哉を仮想敵国認定。危険。


拓海:

動揺を隠しきれていない。わかりやすい。


高坂直哉:

何も知らないまま英国貴族に敵視されている被害者。


ジョージ:

「青春って怖いね(笑)」


(追記)

「やれやれ、だねwwww」

ジョージは、エドワードが真顔で

「高坂直哉……覚えたぞ」

と呟いている瞬間を激写した。

「ハミルトン様。君が一番焦ってるのは――」

「その少年じゃなく、サエキがちゃんと誰かを失いたくないと思い始めたことなんだよね(笑)」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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