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第二百三十八話 「正装とは、人格を整える文化ではなく、野生児を数時間だけ上流階級に偽装するための高度な包装技術である」という話

この先、拓海の日本ニート編(笑)にどうジョージを突っ込めばいいか考え中

クレストフィールド学院

二月。卒業生のためのフォーマル・ディナー。


歴史ある大ホールの重厚な扉が開いたその瞬間、

そこにいたのはラグビー部の荒くれ者たちではなかった。

完璧に包装された、若き貴公子の群れである。


磨き上げられた靴。

寸分の狂いもない襟元。

シャンデリアの光を受けるカフリンクス。

未来ある若者たちの門出を祝う、伝統ある夜。


ただし、その一角だけは様子が違った。


「タクミ。動くな」


低く冷たい声とともに、白い手袋の指先が襟元へ伸びる。


「カフリンクスが一ミリ、予約外に傾いている」


「さっきから締めすぎなんだよバカ!!」


拓海が喉元を押さえて呻いた。


「息できねぇだろ!!」


タキシードを完璧に着こなしたエドワード・ハミルトンは、

拓海の蝶ネクタイを最後の一工程とばかりに整えていた。


その真剣さは、友人の身支度というより、国宝修復の職人に近い。


「我慢しろ」


「やだ」


「これは服ではない」


「嫌な予感しかしねぇ」


「お前という“野生の素材”を、文明社会が受理可能な形へ再梱包する、高度な包装技術だ」


「パッケージって言うな!! 俺は納豆か!!」


会場へ入った拓海は、捕獲された大型獣のように不自然な姿勢で歩いていた。


「背筋」


「今やってる」


「足音」


「人間歩くと鳴るだろ」


「微笑め」


「無茶言うな」


エドワードは眉一つ動かさない。


「お前の背骨には、今この瞬間、ハミルトン家の誇りが一本通っていると思え」


「痛ぇよ!! 他人の家の誇りを脊髄に刺すな!!」


ディナーが始まった。

銀の食器が整然と並び、スープは湯気まで上品だった。

拓海はナイフとフォークを見つめた。


「……多くね?」


「少ないくらいだ」


「嘘つけ」


「外側から使え」


「何で毎回そういう罠みてぇな仕様なんだよ」


エドワードは優雅にスープを口へ運ぶ。


「今日は味ではなく格式を食え」


「意味わかんねぇよ!!」


その直後、拓海は熱いスープで舌をやられた。


「アチィッ!!」


「声量を落とせ」


「無理だろ!!」


やがて校長が壇上から卒業生へ問いかけた。


「諸君。将来の展望について、一言ずつ聞かせてもらおう」


ざわり、と空気が揺れる。


拓海は嫌な予感しかしなかった。


「おい」


「安心しろ」


隣のエドワードが即座に立ち上がる。


「何も安心できねぇ」


エドワードは完璧な所作で一礼した。


「佐伯拓海は一度日本という遠征地へ帰還いたします」


「座れバカ!!」


「しかし数年後には、より洗練された姿で、私の隣という定位置へ復帰する予定です」


「予定にすんな!!」


「なお、最終配属先については現在協議中です」


「就職先みたいに言うな!!」


会場には、妙な感心のため息が広がった。


「さすがハミルトン……友人の将来設計まで完璧だ」


「管理能力が違うな」


「違ぇよ!!」


拓海の叫びだけが真実だった。


ディナー終了後。


拘束具のような蝶ネクタイを引きちぎり、拓海は廊下で深く息を吸った。


「生き返る……」


「品がない」


「うるせぇ」


その足元に落ちたネクタイを、エドワードは静かに拾い上げる。


皺を丁寧に伸ばし、宝物のように見つめたあと、当然の顔で言った。


「記念として額装する」


「やめろ気持ち悪ぃ」


「タクミ」


「なんだよ」


「次は、ウェディング・タキシードだ」


拓海は数秒固まり、叫んだ。


「誰とウェディングなんだよ!!!!」


エドワードは一切表情を変えなかった。


「愚問だ」


「怖ぇよ!!!!」


■ジョージ機密ログ(二月:高級包装技術の夜)

二月。大ホール。

本日のサエキを、永久保存版として複数角度から記録した。


ハミルトン様。

君がサエキの襟を整え、袖口を撫で、姿勢を矯正していたあの満足げな顔。

あれは友人を立派に見せたい顔ではない。

“自分のものが最高級に仕上がった”と確認する顔だったね。


サエキ。

君は苦しい苦しいと文句を言いながら、その衣装を驚くほど自然に着こなしていた。

野生児が数時間だけ見せた、王子の擬態。

それは、君がいつか本当にハミルトンの隣へ並び立つ未来が、決して冗談ではないと証明していたよ。

たとえ直後にスープで舌を火傷し、すべてを台無しにしたとしてもね。


■ジョージ幕間(観測ログ:高級秘蔵品編)

エドワード:

サエキが他家の令嬢へ視線を向けぬよう、首元の角度まで管理。怖い。


拓海:

終始苦しそうだったが、写真映りだけは異常に良かった。腹立たしい。


ジョージ:

「いやー眼福だったね(笑)。ハミルトン様、会場の真ん中で

“この服を脱がせていいのは私だけだ”って囁いてたよ。サエキ、君は本当に最高級の秘蔵品だね」


(追記)

ジョージは、ネクタイを引きちぎって解放感に浸るサエキと、

そのネクタイを持ち帰ろうとするハミルトン様を激写した。

「ハミルトン様。君がどれだけ綺麗に飾っても―」

「君が一番愛しているのは、その包装の下にある、制御不能な生命力なんだよね。」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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