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第二百三十二話 「証明写真とは、本人確認のための記録ではなく、将来を決めかねている野生児を、一時的に人類へ擬態させ、文明社会へ紛れ込ませるための儀式である」という話

菜摘ちゃん、ひどくね?

一月某日。

新学期が始まった。


休暇中の狂気――偽神社建立、餅つき暴動、年越し鐘騒動などは、学校側の迅速な隠蔽努力により

「なかったこと」とされ、生徒たちは何事もなかった顔で授業へ戻っていた。


だが、最上級生たちの前には、別種の現実が静かに迫っていた。


願書提出。

進学面談。

卒業準備。


そして、その入口にして最初の敵―


証明写真。


図書室の隅。

佐伯拓海は、駅前のスピード写真機で撮ってきた数枚の写真を机に並べていた。


どれも妙に顔色が悪く、目つきが鋭く、照明の都合で片頬に謎の影が落ちている。


総じて、

深夜に港で職務質問される側の顔 であった。


それを見下ろすエドワード・ハミルトンの翡翠色の瞳が、ゆっくり細められる。


「……タクミ」


「なんだよ」


「これがお前か」


「俺だよ」


「私の許可なく、ここまで指名手配犯に寄せてくるとは」


「寄せてねぇよ!!」


拓海は写真をひったくった。


「顔なんて映ってりゃいいんだよ! 願書だぞ!」


「黙れ」


エドワードは即答した。


「教授陣がこれを見て、安心して未来を預けると思うか」


「写真一枚に期待しすぎなんだよ!」


「していない」


一拍置く。


「最低限の擬態を求めているだけだ」


「人類扱いされてねぇな俺!?」


数分後。

拓海は首根っこを掴まれ、図書室の姿見の前に立たされていた。


そこから始まったのは、通称―


”ハミルトン流・顔面矯正プログラム”。


「動くな」


「もう嫌だ」


「ネクタイの結び目が一ミリ左だ」


「見えねぇよ」


「顎を引け」


「息できねぇ」


「背筋を伸ばせ。背骨に鉄柱が入ったと思え」


「痛ぇ想像だな!?」


「視線が獣だ。知性の布で包め」


「意味わかんねぇ!!」


エドワードの指先が、容赦なく拓海の襟を整え、髪を撫でつけ、肩の角度まで修正していく。


「笑うな」


「笑ってねぇよ」


「その顔は“喧嘩前”だ」


「自然体なんだよ!」


「最悪だな」


「お前がな!!」


撮影当日。

街の写真館。


カメラマンが拓海を見る。

次にエドワードを見る。

また拓海を見る。


「……ご兄弟ですか?」


「違う」


「違う」


二人同時だった。


「ご友人で?」


「違う」


「違わねぇだろ!」


拓海のツッコミが響く。


数分後。

フラッシュが焚かれた。


出来上がった写真を見て、拓海は絶句した。

そこに写っていたのは、いつものボサ髪の野生児ではない。


整えられた前髪。

真っ直ぐな背筋。

静かな眼差し。

どこか名家の若き嫡子か、あるいは外交官の子息のような、気品ある美青年。


「……誰だよ、これ」


「お前だ」


「嘘つけ」


エドワードは写真を持ち上げ、満足げに頷く。


「完璧だ」


「どこが」


「これで世界は、お前を“私の隣に立つ男”として誤認できる」


「怖ぇよ言い方が!!」


拓海は半ば意地になって、その写真をスマホで撮り、日本で受験勉強中の菜摘へ送信した。


数分後、返信。


『誰これ。新手の詐欺? たっくんのスマホ、盗まれた?』


拓海は机に突っ伏した。


「……ほら見ろ」


「何がだ」


「シャーマンには擬態が通じねぇんだよ、バカ……」


エドワードは静かに舌打ちした。


「忌々しい洞察力だな」


「そこ怒るとこか?」


その夜。

エドワードは、自室でこっそり待ち受け画面を更新していた。


”王子様のように写る拓海の証明写真”へ。


■ジョージ幕間(観測ログ:新春・顔面偽造事件編)


『サエキ事変ノート:ハミルトン様、最高傑作の完成に歓喜』


一月。証明写真撮影会。


エドワード(演出家):

サエキの野生味を完全に抑え込み、社交界仕様の美青年へ加工成功。写真館からの帰路、ずっと機嫌が良かった。気持ち悪いほどに。


拓海(被写体):

顔をいじられ、姿勢を矯正され、尊厳を削られた結果、“知らない自分”が完成。本人は終始納得していない。


ジョージ:

「いやあ、見事だったね(笑)。ハミルトン様、襟足を整えながら“このうなじに家紋を刻みたい”って呟いてたよ。怖いね」


(追記)


「……ヒ、ヒヒッ!!」


ジョージは、証明写真を額縁サイズに拡大できないか真剣に業者比較しているハミルトン様を激写した。


「ハミルトン様。君がどれだけ綺麗に飾ってもね――」


「君が一番好きなのは、ネクタイを秒で引きちぎって、泥だらけで飛びかかってくる本物のサエキなんだよ、バカ(笑)」


「タクミ」


「なんだよ」


「その顔を維持しろ」


「五分ももたねぇよ、バカ!!」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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