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第二百三十一話 「居残りの終わりとは、静かに日常へ回帰する穏やかな過程ではなく、異世界の王(バカ)が築き上げた狂気の祭壇を、全力で隠滅しながら現実へ引き戻される大掃除のことである」という話

あと半年で卒業回だけどたどり着けるかなー

クレストフィールド学院

一月四日、早朝。

冬休みの終わりを告げるように、正門が開いた。


馬車でもなく、王の行列でもなく、ただの荷物を抱えた生徒たちが、

眠たげな顔で次々と寮へ戻ってくる。


彼らが最初に目にしたのは――


中庭の中央に聳え立つ、赤布を巻かれたラグビーポスト製鳥居 だった。


しかも一本、やや傾いている。


その下では、白いカーテンを縫い合わせただけの神主装束を翻し、

エドワード・ハミルトンがラグビーボールを大幣のように振り回していた。


「……来たか、背景ども」


朝靄の中、翡翠色の瞳だけが冷たく光る。


「新年の穢れを、この私が浄化してやろう」


ラグビーボールが唸りを上げる。


生徒たちは止まった。


「……何やってんだ、あの人」

「休暇中に悟ったのか?」

「いや、堕ちたんじゃないか?」

「日本文化の……何か?」


ざわめきが広がる。


その少し離れた場所で、佐伯拓海は地面にしゃがみ込み、両手で顔を覆っていた。


「……終わった」


誰にも聞こえぬ声で呟く。


「俺の学校生活、今ので終わった……」


「何を言う」


エドワードが振り返る。


「これこそが、東洋のシャーマン菜摘に対抗する最強の結界だ」


「やめろその設定まだ続いてたのかよ!!」


「さあタクミ」


エドワードは箱を差し出した。


「戻ってきた下級生たちへ、“ハミルトン特級大吉”を配布しろ」


「布教活動に俺を巻き込むな、バカ!!」


拓海は箱ごと押し返した。


その時だった。

校舎の陰から、肩を震わせる男が現れた。


ジョージである。


カメラを構えたまま、既に涙目だった。


「いやぁ……無理だよ、サエキ……っ(笑)」


「笑ってねぇで助けろ!」


「だってハミルトン様、さっきから――」


ジョージは息を整え、物真似する。


「“菜摘とかいう女が、お守りを送りつけてくる前に、この寮をハミルトンの神域へ変える”って、

本気でポストにボルト打ち込んでたんだよ……っ(笑)」


「お前ほんと何してんだよ!!」


「防衛だ」


「侵略だろうが!!」


さらに最悪なことに、拓海はこの寮の監督生プレフェクト だった。

つまり、校内秩序と規律を守る立場の人間である。

その監督生が、違法鳥居の横で叫んでいる。


遠巻きにしていた下級生たちの目が、少しずつ変わっていく。


尊敬から困惑へ。

困惑から納得へ。


「……ああ、サエキ先輩って、そういう……」


「違ぇよ!!」


拓海の叫びが空へ消えた。


数時間後。


監督生会と寮監の連名により、ハミルトン大明神は不法建築物として強制撤去 された。


鳥居解体。

賽銭箱没収。

絵馬回収。

おみくじ焼却。


そして拓海の机には、一枚の紙が置かれた。


始末書


一月四日早朝に発生した宗教的構造物騒動について、監督生としての見解と再発防止策を述べよ。


「……なんで俺もなんだよ」


「連帯責任だ」


「主犯お前だろ!!」


「監督生だろう、お前は」


「今だけ校則使うな、バカ!!」


夕方。


すべてが片付いた中庭には、ただ冬の芝生だけが残っていた。


拓海は窓からそこを見下ろし、少しだけ黙る。


静かだった。

騒がしかった数日が、嘘みたいに。


「……なんだよ」


「寂しいのか」


背後からエドワードの声。


「違ぇよ」


「そうか」


「ただ……」


拓海は鼻を鳴らす。


「少しだけ、うるさい方がマシだっただけだ」


エドワードはわずかに笑った。


「安心しろ」


「嫌な予感しかしねぇ」


「次は大理石で建てる」


「二度と作るな、バカ!!」


拓海のクッションが飛んだ。


冬休みは終わった。


だが、二人の騒音だけは、まだ終わりそうになかった。


■ジョージ幕間(観測ログ:新春・狂乱のフィナーレ編)


『サエキ事変ノート:祭りの後の、冷徹な予約』


一月四日。午後。


エドワード:

偽神社は撤去されたが、脳内では“ハミルトン邸本殿計画”が既に着工済み。

日本のシャーマン対策として、将来的な佐伯家居住区の全方位神域化を検討中。怖い。


拓海:

監督生なのに始末書を書かされる。しかも内容は「宗教施設騒動について」。気の毒である。


ジョージ:

「いやあ、最高だったね(笑)。ハミルトン様、サエキが始末書を書いてる横で“字が汚い、

私が添削する”って言い出したんだよ」


(追記)


ジョージは、解体された鳥居の一部を“記念品”として自室へ運び込むハミルトン様を激写した。


「ハミルトン様。君がどれだけ神様を真似てもね―」


「君の願いは一つだけだ。サエキが死ぬまで隣で“バカ!”と叫び続けることなんだよ(笑)」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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