表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
256/386

第二百二十六話 「新年の抱負とは、希望に満ちた未来を語る場ではなく、隣にいる重たい男に”空白の予定表”を買い占められるための競売場である」という話

元旦から皆騒がしい

一月一日、夕暮れ。


元旦の光は早く沈む。

図書室の窓の外では雪雲が低く垂れこめ、暖炉の火だけが室内を赤く照らしていた。


拓海はクッションを投げた姿勢のまま、ソファに沈んでいる。


「……おい、エド」


「なんだ」


「お前、さっきから新聞の同じページ三分見てるぞ」


エドワードは平然と紙面をめくった。


「経済欄は奥深い」


「逆さまだぞ」


「……」


「バレバレなんだよ、バカ」


エドワードはゆっくり新聞を畳んだ。


「お前の父上が放った“進路”という二文字が、紙面全体を侵食していてな」


「病院行け」


拓海は腕を頭の後ろに回し、天井を見る。


「だいたい卒業後なんて、その時になって決めりゃいいだろ。

試合中に次の試合のこと考えるやついるか?」


「いる」


「いねぇよ」


「いる。勝つ者は常に次を見ている」


「うるせぇ理屈屋」


拓海は鼻を鳴らした。


「ボールが来たら走る。それだけだ」


その言葉に、エドワードの目が細くなる。


「……無策だな」


「なんだと」


「お前がその場の直感で海を越え、私の手の届かぬ場所で勝手に転び、勝手に野垂れ死ぬことを――」


一拍置く。


「私が許すとでも思っているのか」


「重っっっ!!」


拓海は起き上がった。


エドワードは静かに立ち上がる。

その動作だけで、部屋の空気が少し狭くなった。


「提案がある」


「ろくでもねぇ顔してる時の提案だな」


「お前が何も決めていないのなら」


エドワードはテーブルの上に手帳を置く。

開かれたページには、日付と予定欄が整然と並んでいた。


「その空白を、私に預けろ」


「は?」


「日本の大学。英国の大学。推薦制度。試験日程。寮設備。治安。距離。私の屋敷からの移動時間」


「最後おかしいだろ」


「全て私が精査する」


「なんで屋敷基準なんだよ!」


「当然だ」


「当然じゃねぇよ!」


エドワードは胸を張る。


「お前の人生に無駄な遠回りはさせん」


「進路相談の顔して飼育計画出してくんな、バカ!!」


その叫びに、エドワードはわずかに口角を上げた。


「光栄だ」


「褒めてねぇわ!」


「では夕食前に始めよう」


「何を」


「親に言えぬ本当の志望先の聴取だ」


「ねぇよそんなもん!」


「ある」


「ない!」


「ある」


「うるせぇ!!」


拓海の怒声が図書室に響く。


窓の外では、雪がまた降り始めていた。


■ジョージ幕間(観測ログ:元旦・進路査定特別編)


『サエキ事変ノート:進学相談の皮を被った囲い込み』


一月一日、夕暮れ。


エドワード:

“未定”という単語を聞いた瞬間、脳内祝砲。選択肢が空いているということは、

介入余地があるという意味である。


拓海:

親の進路確認から逃げた結果、もっと面倒な個別指導塾へ捕獲された。


ジョージ:

「いやあ、見事だね(笑)。ハミルトン様、進学先じゃなく“サエキの配置先”を決めてるだけなんだよ」




ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ