第二百二十四話 「新年とは、静寂の中で自己を律する時間ではなく、孤独な居残り組を強制的に招集し、一人の王(バカ)を神輿に担ぎ上げるための暴動である」という話
拓海君・・・材料どこから・・・?
一月一日、早朝。
雪の朝だった。
寮の廊下は冷え切り、窓の外は白い。
本来なら誰も起きていない時間である。
だがエドワード・ハミルトンは起きていた。
食堂を、二人だけの新年空間へ改装するために。
白いクロス。
磨かれた銀器。
茶葉。
東洋文化に敬意を払ったつもりの謎の花瓶。
「……完璧だ」
タクミと静かに新年を祝う。
他者の介在しない、洗練された朝。
その理想を胸に、扉を開いた。
次の瞬間。
「よいしょォォ!!」
「うおおおお!!」
「粉もっと寄越せ!」
食堂は戦場だった。
中央では、拓海が腕まくり姿で叫んでいる。
「腰が入ってねぇぞ一年! もっと踏み込め! 餅は気合いだ!」
受験疲れで死んだ目をしていた最上級生。
帰省できず沈んでいた下級生。
その全員が、ラグビー部の練習ポールを杵代わりに振り回していた。
「……タクミ」
エドワードの声が、零下数度まで下がる。
「これは何だ」
拓海は振り返り、満面の笑みを浮かべた。
「お、ハミルトン! ちょうどいい!」
嫌な予感しかしなかった。
「こいつら湿っぽくてさ。元旦から暗ぇのはよくねぇだろ?」
「だから餅を突いているのか」
「そうだ!」
「意味が分からない」
「俺もだ!」
「……」
「ほら、お前あっち行け!」
拓海はエドの肩を押した。
「餅丸め係やれ。英国貴族流で」
「断る。私は背景と関わるつもりは――」
「先生ー! ハミルトン先生来たぞー!」
一年生たちの目が輝いた。
数分後。
タキシードの上から純白のエプロンを着けたエドワードが、
完璧な手つきで餅を丸めていた。
「違う」
ぴしゃりと言う。
「掌の角度が甘い。円とは妥協の産物ではない」
「は、はい!」
「粉は最小限。品位を保て」
「は、はい!!」
「鏡餅とは、単なる食品ではない。秩序の象徴だ」
誰も意味は分からなかったが、なぜか全員感動していた。
拓海は笑いながら、その横でつきたての餅を頬張る。
「うめぇ!」
その一言で、エドワードの機嫌が少し直った。
「……当然だ。私が監修した」
「チョロ」
「何か言ったか」
「別にー」
食堂には湯気が満ちていた。
笑い声。
足音。
怒鳴り声。
説教。
餅の香り。
数十分前まで静かだった元旦の朝は、もうどこにもない。
だが、不思議と悪くなかった。
■ジョージ幕間(観測ログ:新春・居残り組の逆襲編)
『サエキ事変ノート:王、ついに民へ労働提供』
一月一日。食堂にて革命発生。
エドワード:
二人きり新年計画、開場三秒で崩壊。
その後、教師役を与えられ即復活。扱いが簡単。
拓海:
「暗いなら騒げ」で全員救済。脳筋の奇跡。
ジョージ:
「いやあ、素晴らしい統治だね(笑)」
(追記)
ハミルトン様特製、家紋入りプロテイン餅を確認。
食べ物への冒涜か、愛情表現かは判断が分かれる。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




