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第二百二十三話 「年越しとは、厳かに時を刻む儀式ではなく、異国の文化を自分流に誤読し、相棒を困惑させるための全力の余興である」という話

色々違う年越し編


十二月三十一日、深夜。

寮のコモンルームには、見慣れぬ祭壇が築かれていた。


机の上には、湯気の立つ鍋。

筆と墨。

謎の鐘。

積み上げられた餅。

そして中央に仁王立ちする、エドワード・ハミルトン。


「……タクミ。待っていた」


「嫌な予感しかしねぇ」


拓海は扉のところで踵を返しかけたが、すでに遅かった。


「本日は、お前の祖国の伝統――年越しを執り行う」


「帰る」


「座れ」


「横暴だな!?」


エドワードは誇らしげに鍋の蓋を開けた。


「まずはトシコシ・ソバだ」


「お、まとも――」


「ただし改良した」


出てきたのは、蕎麦ではなかった。


極太うどん。

しかも芯が白い。明らかに硬い。


「細く長く生きることを願う料理だろう?」


「そうだよ」


「ならば、より長く、より強くあるべきだ」


「違う」


「耐久性も考慮し、茹で時間は三分の一に短縮した」


「もっと違う!!」


拓海は一本持ち上げた。


曲がらない。


「武器じゃねぇか、これ!」


「黙れ。噛み締めろ。ハミルトン家とサエキ家の絆を象徴している」


「絆が歯を折りに来るな!」


それでも拓海が笑いながら一口すすったところで、視界の端に巨大な紙が入った。


壁一面の書初め。


達筆でこうある。


拓海・永久・予約


「なんだそれ!?」


「決意表明だ」


「怖ぇよ!」


「来年のお前の時間は、私が優先的に確保する」


「言い方を選べ、バカ!」


エドワードはさらに部屋の隅を指した。


そこにはラグビー部から持ち込まれたらしい古いハンドベルが置かれている。


「次に除夜の鐘だ」


「は?それ鐘なのか?」


「百八回、お前が鳴らせ」


「なんで俺が」


「煩悩を祓うためだ」


「お前の煩悩が百八じゃ足りねぇだろwww」


拓海は額を押さえ、数秒考えた。


それからにやりと笑う。


「……わかった」


「理解が早くて助かる」


「鐘、いらねぇよ」


次の瞬間。


拓海は助走をつけて、エドワードへ全力タックルを叩き込んだ。


「ぐはっ!?」


「一煩悩!!」


「やめろ!」


「二煩悩!!」


「待て!!」


「三煩悩!!」


静かな寄宿舎に、鈍い衝突音と悲鳴が響き渡る。


百八つ目の頃には、エドワードはソファに沈み、拓海は笑いすぎて床に転がっていた。


やがて遠くの時計塔が零時を告げる。


新しい年が来る。


「……タクミ」


「なんだよ」


「来年も逃がさない」


拓海は息を整えながら鼻で笑った。


「お前がな、バーカ」


窓の外では雪。

部屋の中では、年明け早々うるさかった。


■ジョージ幕間(観測ログ:英国式・誤作動年越し編)


『サエキ事変ノート:文化交流、だいたい失敗』


十二月三十一日。深夜。


エドワード:

日本文化を調べた結果、自分に都合よく改造。もはや創作。


拓海:

全部ツッコミながら参加。甘い。


ジョージ:

「いやあ、素晴らしい国際交流だね(笑)」


(追記)


ハミルトン様、うどんを噛むたび


『また一つ縁が結ばれた』


と数えていた。

新年早々かなり重い。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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