第二百十八話 「不在とは、人がいない状態ではなく、邪魔者が消えたあとに残る”本音”を、物陰からレンズ越しに観察するための絶好の機会である」という話
ジョージ主人公で別な話書いても面白そう
「……ジョージ。お前、なぜまだここにいる」
朝食後。食堂の隅。
エドワードは、カメラを分解整備しているジョージを見下ろし、露骨に眉を寄せた。
「お前の家はロンドンだろう。クリスマスには、退屈な親戚と、
無味乾燥な会話と、加熱しすぎた七面鳥が待っているはずだ」
「詳しいね(笑)」
ジョージはレンズを磨きながら肩をすくめた。
「でも予定調和って退屈なんだよ。毎年同じ顔ぶれ、同じ会話、同じ笑い声」
カチリ、と部品をはめる。
「それより、誰もいない寮で君たちがどんな無駄な冬を過ごすのか、、
その方が、僕の魂にはよほど有意義な聖夜だ」
「暇人か、お前」
拓海が笑いながら、紙コップを差し出した。
「プロテイン飲む? 余ってるぞ」
ジョージが受け取ろうとした、その瞬間。
すっとエドワードが割って入った。
「タクミ」
低い。
「背景に、貴重な蛋白質を与えるな」
「背景って言うなよ」
「ジョージ」
エドワードは冷ややかに告げた。
「お前はそこにいろ。壁のシミか、古い肖像画として。気配を消せ」
「うわぁww待遇がどんどん悪化してるなあ(笑)」
「喋るシミは不快だ」
「なら撮るだけにするよ」
ジョージはにこやかにカメラを構えた。
カシャ、と、シャッターが切られる。
そこには、自分たち以外の存在を徹底して排除しようとしながら、結局その第三者に関係性を見届けられている二人の姿が写っていた。
拓海は呆れ顔。
エドワードは不機嫌。
距離だけは、妙に近い。
「……ジョージ」
「ん?」
「こっちを見るな」
「シミだから見てないよ(笑)」
「殺すぞ」
「物騒だなあ、聖夜なのに」
拓海は吹き出した。
その笑い声に、エドワードだけが少し機嫌を直した。
ジョージは、ちゃんと撮っておいた。
■ジョージ幕間(観測ログ:残留記録者の弁明編)
『サエキ事変ノート:僕は壁のシミにして唯一の証人』
十二月二十一日。
結局、僕も残った。こんな面白い冬を見逃したら観測者失格だからね。
エドワード:
僕を背景処理しようとしているが、サエキが僕と話すたび露骨に不機嫌になる。背景に嫉妬する男、初めて見た。
拓海:
僕がいると安心している。たぶんハミルトン様の重さを一人で受け止めたくないのだと思う。賢明である。
ジョージ:
暖房の効いた図書室で、二人がネクタイの結び方ひとつで揉める姿を撮る。これ以上の娯楽を、僕はまだ知らない。
(追記)
その後、ハミルトン様がサエキの耳掃除をしようとしていた。
意味が分からないので、とりあえず撮影した。
僕のファインダーの中の君は、世界で一番、『サエキに必死な男』なんだよ(笑)
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
いいねや感想など、いつも励みになっています。
この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




