第二百十七話 「孤独とは、周囲に誰もいない状態を指すのではなく、特定の誰か以外を”風景”として処理した瞬間に完成する、極めて身勝手な聖域である」という話
エドワードの暴走がとまらない。もう僕(作者)でも抑えられない。
十二月二十一日。休暇二日目の朝。
食堂にはまだ数人の生徒が残っていた。
帰省の都合がつかなかった下級生。受験を控えた最上級生。事情はそれぞれだが、皆どこか所在なげに、静かな朝食を咀嚼している。
その中で、拓海だけがいつも通りだった。
「お、結構いるじゃん」
焼きたてとは言い難いトーストを齧りながら、拓海は食堂を見回した。
「二人っきりかと思ったら違ったな。あっちラグビー部の後輩じゃねぇか。
なんか寂しそうだし、プロテインバー分けてやるか」
そう言って立ち上がろうとした瞬間、腕を掴まれた。
無言だった。
ただ、エドワードの指先だけが、妙に強かった。
「……タクミ」
低い声だった。
「お前には、何が見えている」
「は?」
「私の視界には、お前という未完成な個体と、この冷え切ったトーストしか存在していない」
真顔で言った。
「それ以外は、すべて動く壁だ。あるいは雑音だ。認識する価値もない」
「へ?いや、あるだろ。人間だぞ?」
「違う」
即答だった。
「この広大な寮を、私たちだけの空間として認識することで、精神的ゆとりは生まれる。そこに余計な情報を入れるな」
「情報って言うな。後輩だぞ」
「ノイズに蛋白質を配給する必要はない」
エドワードはそう言い放ち、自分の皿のトーストを一枚、二枚、三枚と拓海の皿へ積み上げた。
「資源は有限だ」
「お前の分なくなるだろ」
「問題ない。私はお前が食べている姿で満たされる」
「いや、朝から気持ち悪ぃこと言うな、バカタレ!」
周囲の生徒たちが静かに目を逸らした。
エドワードは気にしない。
そもそも、彼の中では誰も存在していないのだから。
「いいか、タクミ」
腕を引く。
「この休暇中、お前の網膜が捉えていい人間は―私だけで十分だ」
「重っっっっ!!」
拓海は叫びながらも、そのまま席へ引き戻された。
数人の残留生徒のあいだを、王の行進のように堂々と。
誰よりも迷惑で、誰よりも満足げに。
■ジョージ幕間(観測ログ:冬の寮・独裁国家編)
『サエキ事変ノート:ハミルトン様、ついに人口統計を改竄』
十二月二十一日。寮内残留者、推定十名。
なおハミルトン様の認識上、人類は現在二名である。
エドワード:
サエキ以外の生徒を「背景」に設定。挨拶されても視線すら向けず、パンを取ろうと近づいた下級生に対し、フォーク一本で退去勧告を行う。小国なら滅んでいる。
拓海:
状況を理解していない。
トーストを三枚積まれ、「ラッキー」と食べていた。危機感がない。
ジョージ:
「いやあ、怖いね(笑)。ハミルトン様、独占欲を哲学で包むと上品に見えると思ってる節がある」
(追記)
その後、廊下で追いかけっこを始めた二人を撮影。
ハミルトン様はどれだけ他人を風景扱いしても、サエキを見る顔だけは、世界で一番うるさい。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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