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第二百十六話 「休暇とは、休息のための期間ではなく、有り余る時間をすべて“相棒(バカ)”への過剰な干渉に注ぎ込むための、壮大な無駄遣いである」という話

ぱーてーのまえにふゆやすみにはいりますん(。-`ω-)

十二月二十日。休暇初日。


生徒たちの去った寄宿舎は、驚くほど静かだった。

廊下には足音もなく、談話室の暖炉だけが、ぱちぱちと穏やかに燃えている。


いつも騒がしい寮が、まるで別の建物のようだ。


その静寂の中、拓海だけは元気だった。


「っしゃあ!!」


自室の扉を蹴る勢いで開け、荷物を放り込み、窓を開け放つ。


「誰もいねぇ! グラウンド使い放題! 廊下ダッシュし放題! 筋トレし放題! 最高かよ!」


休暇という言葉を、完全に体育施設の貸切営業だと誤解している男だった。


ベッドに飛び込み、そのまま起き上がる。


「まずはランニング十周だな。んで腕立て、腹筋、スクワット――」


「却下だ」


背後から、冷えた声がした。


拓海が振り返る。


そこにいたのはエドワードだった。


完璧な姿勢。

完璧な服装。

完璧に嫌な予感のする微笑。


そして両腕には、辞書より厚い紙束。


「……なんだそれ」


「今日から始まる、私たちの完璧な休暇計画書だ」


「嫌な単語しかねぇなw」


エドワードは紙束を机へ置いた。

鈍い音がした。


表紙には、美しい筆記体でこう書かれている。


WINTER RECESS REFORMATION PROGRAM

(冬期休暇・人格矯正計画)


「お前、バカか?」


「違う。先見の明がある」


エドワードは一枚目を広げる。


「午前六時起床。白鳥の湖を聴きながらの柔軟体操」


「やだ」


「七時。正しい朝食作法」


「やだ」


「九時。英国王室史に関する対話的講義」


「やだ」


「正午。正しい昼寝姿勢の実践」


「昼寝に正しさあんの!?」


「ある」


即答だった。


「十四時。詩的散歩。会話は禁止」


「地獄かよ」


「十六時。紅茶の淹れ方実習」


「飲めりゃ同じだろ」


「違う」


「十八時。スコーンの正しい割り方、一万回」


「一万回!? お前、呪術師か何かか!?」


拓海が叫ぶ。


エドワードは眉一つ動かさなかった。


「誰もいない今こそ、お前のその野生児的欠陥を、

洗練された紳士へ強制アップグレードする絶好の機会だ」


「俺は家電か」


「性能は低いが、改造の余地はある」


「失礼すぎんだろ!!」


拓海は計画書をひったくった。


そして数ページめくり、顔を引きつらせる。


「……二十一時、“本日の反省会(九十分)”」


「大事だ」


「二十二時、“明日の私への感謝を込めて就寝”」


「人格形成に必要だ」


「怖ぇよ!!」


拓海は紙束を丸めた。


「よし決めた」


「何をだ」


「全部やめだ」


そのままエドワードの胸へ計画書を押しつけ、代わりにシェイカーを握らせる。


「今日の予定はこれだ」


「……何だこれは」


「プロテイン」


「却下だ」


「飲め」


「断る」


「飲め」


「断る」


「飲め」


「……少しなら」


「よし」


五分後。


中庭。


「なぜ私は外にいる」


「筋トレするからだよ」


「聞いていない」


「今言った」


「今では遅い」


「スクワット百回」


「多い」


「九十九回にしてやる」


「そういう問題ではない!!」


拓海の号令が冬空に響く。


エドワードはコート姿のまま、ぎこちなく腰を落とした。


「一!」


「……屈辱だ」


「二!」


「これは英国への侮辱でもある」


「三!」


「脚が震えている」


「効いてる証拠だ、バカ!!」


結局その日、優雅な英国式休暇計画は開始十分で崩壊し、

ハミルトン家の次期当主は、中庭で涙目になりながらスクワットをする羽目になった。


冬の空は高く、青かった。


■ジョージ幕間(観測ログ:冬期合宿・ハミルトン監修失敗編)


『サエキ事変ノート:計画表は紙飛行機になった』


十二月二十日。

誰もいない寮にて、二人のバカによる休暇が始動。


現状:


エドワード:

「サエキを紳士に育てる」という名目で、二十四時間自分の視界に置く計画を策定。

だが開始直後に計画書を没収され、現在はスクワット四十七回目で魂が抜けかけている。


拓海:

休暇=体を鍛える時間、としか認識していない。

誰もいない寮全体を巨大なトレーニング施設だと思っている節がある。


ジョージ:

いやー……最高だね(笑)。

さっきまで格式と教養を語っていたハミルトン様が、

今はサエキに「膝が内に入ってるぞ!」と怒鳴られている。


(追記)


その後、四足歩行で廊下を進む謎の訓練が始まった。


ハミルトン様。

君がどれだけ休暇を洗練しようとしても、サエキといる限り、その冬はただの青春なんだよ。(笑)

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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