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第二百十一話 「選定とは、祝福の名を借りて嫉妬心を包装紙で包み込む、高級百貨店的儀式である」という話

ライバルへのプレゼント選びかな

クレストフィールド学院

十二月中旬。

郵便受けに、一通の封筒と小さな小包が届いた。


図書室へ戻った拓海は、それを机の上へ置き、何でもない顔で封を切る。


「……お、また菜摘からだ」


その一言のあと、暖炉が小さく鳴った。


向かいで本を開いていたエドワードは、ページをめくらなかった。

視線だけが、封筒の隅に貼られた日本の切手へ静かに落ちる。


「……タクミ」


「んー?」


「その、親愛に満ちた紙切れを、早く処理しろ」


拓海は顔を上げた。


「処理てwww」


「読むなら読め。読まないならしまえ。そこにあるだけで鬱陶しい」


「お前ほんっとわかりやすいな」


「黙れ」


拓海は笑いながら便箋を広げた。


「えーと……“冬期講習で死にそう”だってさ」


「脆弱だな」


「あと、“拓人が新しい参考書送ったから、お前にも読めってうるさい”」


エドワードの眉がわずかに動く。


「……なるほど」


「何が」


「その同級生は、お前の日常を日本へ繋ぎ止める役割を担っている」


「急に重くすんなよ」


「重いのは事実だ」


エドワードは本を閉じた。


「兄は進路で縛る。家族は情で引き止める。そして彼女は、

何気ない近況でお前を向こう側へ接続し続けている」


「菜摘はそんな大層なこと考えてねーよ」


「考えていないから厄介なのだ」


拓海は吹き出した。


「お前に言われたくねぇな、バカw」


便箋を読み終えた拓海は、小包の中身を見て笑った。


「うわ、カイロ入ってる。“そっち寒いでしょ”だって」


少しだけ、声が柔らかくなる。


エドワードはそれを見て、ますます面白くない顔をした。


「……で」


「ん?」


「返礼はどうする」


「適当に売店のショートブレッドでいいだろ。菜摘、甘いもん好きだし」


「よくない」


エドワードの返事は、妙に低くて即答だった。


拓海が瞬く。


「なんでだよ」


エドワードはゆっくり立ち上がった。


「それは単なる礼ではない」


「は?」


「お前が、”今どのような場所で、どのような空気の中にいて、

どのような水準のものに囲まれているか”を、遠くの人間へ正確に伝える必要がある」


「何言ってんだお前?」


「贈答とは演出だ」


真顔だった。


「お前個人の雑な気分で済ませていいものではない」


「いや、ただのクリスマスだろ」


「だからこそだ」


エドワードは机の上のカイロを見た。


「その同級生が“今も知っている拓海”に対して送ってきたものがあるなら、

こちらも“今ここにいる拓海”を送り返すべきだ」


拓海は黙った。


言っていることはだいぶ面倒くさい。

だが、完全に間違っているとも言えないのがさらに面倒くさい。


「……で?」


「選ぶ」


「今から?」


「当然だ」


それから三時間。


図書室の机には、いつの間にか百貨店のカタログが何冊も並び、

エドワードはその中央で完全に仕事の顔をしていた。


「紅茶はこれだ」


「多くね?」


「冬期講習中なら消費する」


「なんでそんな断言できんの」


「茶葉の質が悪いと集中力が落ちる」


「お前が飲むわけでもねぇのに」


「箱は深緑」


「なんで」


「赤は押しつけがましい。青は冷たい。深緑がもっとも無難だ」


「リボンまで決めんのかよ」


「当然だ」


エドワードはカタログの一点を指先で押さえた。


「この組み合わせなら、受験生に対する実用性を保ちつつ、

英国的な洗練と落ち着きを同時に印象づけられる」


「印象づける必要あんの?」


「ある」


「菜摘に?」


「……遠くにいる者全般にだ」


拓海は呆れて笑った。


「お前、性格悪ぃなー」


「今さらか」


「今さらだな」


しばらく沈黙。


それから拓海は、カタログを眺めるエドワードを見て、ぽつりと言った。


「……まぁ、お前が選ぶなら間違いねぇか」


その一言で、エドワードの手が止まった。


「……何だ今のは」


「何って?」


「その無防備な信頼は」


「お前、こういうの得意だろ」


「…………」


「だから任せる」


拓海はあっさり言って、椅子にもたれた。


エドワードはしばらく黙っていたが、やがて咳払いを一つした。


「……当然だ」


「照れてんのかw」


「違う」


「耳赤ぇぞ」


「暖炉のせいだ」


「はいはい」


■ジョージ幕間(観測ログ:贈答という名の領土主張編)

『サエキ事変ノート:包装紙の内側は嫉妬』


十二月中旬。

ハミルトン様、菜摘ちゃんへのクリスマスプレゼント選びに完全介入。


本人の主張はこうだ。


“実用性と洗練の両立である”


嘘である。


本当は、サエキの“今”を、日本で昔から彼を知る同級生へ送りつけたいだけだ。

もっと言えば、その“今”の隣に自分がいることを、包装紙の向こう側へ滲ませたいだけである。


ひどい。

だが実にハミルトン様らしい。


一方サエキは、


「食えればいいだろ」

「使えればいいだろ」


の精神で生きているので、途中から完全に丸投げした。


そしてここが一番たちが悪いんだけど、

サエキは本当に、ハミルトン様が選んだものなら間違いないと思っている。


無自覚な信頼。

劇薬である。


現状:


エドワード

菜摘ちゃんに嫉妬している。

だが嫉妬とは言いたくないので、百貨店的美意識で包んでいる。


拓海

エドワードが執着深く選ぶ姿を見て、「ま、いっか」と思っている。

こういう雑な信頼が一番人を狂わせる。


ジョージ

「いやー……いいね(笑)。ハミルトン様、菜摘ちゃんが喜ぶ顔じゃなくて、“なんか負けた気がする”って顔を想像して選んでるだろ(笑)」


(追記)


最後の最後まで、エドワードはリボンの色で悩んでいた。


「この色は軽い」

「これでは感情が安い」

「日本の冬に対して少し湿度が足りない」


などと真顔で言っていたが、途中からサエキは聞いていなかった。


机に突っ伏して寝ていた。


ハミルトン様は五秒ほど黙ったあと、そっとブランケットを掛けた。


……包装紙より、そっちの方がよほどわかりやすいんだけどね(笑)

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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