幕間 「■ジョージ幕間:十一月某日:検閲と平安貴族とバナナ味」という話
ジョージ君幕間
■ジョージ記録
十一月二十八日。霧、のち面倒くさい男。
ハミルトン様がついに、日本文学を嫉妬の道具として運用し始めた。
『伊勢物語』を読みながら、在原業平を「思想犯」と断じる英国貴族の嫡男。
うん。世界で彼一人だけだろうね(笑)
菜摘ちゃんの手紙が届いて以降、彼は郵便受けが鳴るたびに、まるで砲撃警報でも聞いた顔で肩を強張らせていた。
紙一枚にここまで精神を揺らされる秀才も、なかなか希少種だ。
けれど、今日のサエキは強かった。
「お前、今ここにいんじゃん」
たったそれだけ。
説明も理屈もなく、過去も未来も飛び越えて、現在地だけで全部片づける野生の正論。
あれには流石のハミルトン様も黙ったね。
千年前の歌物語。
恋文文化。
文の美学。
距離ゆえに募る想い。
そんなものを全部まとめて、サエキ拓海は「近くにいればいいだろ」で踏み抜いていった。
実に乱暴。
実に雑。
そして、恐ろしく強い。
結局ハミルトン様は、「検閲(防災)」という物騒な計画を撤回し、拓海の隣席を確保するという、世界一単純で、世界一効果的な対抗策へ移行した。
正しい判断だと思うよ(笑)
なにしろ今の彼にとっては、郵便受けの中身よりも、隣で英作文に唸りながら
バナナ味のプロテイン臭を撒き散らしている男の方が、よほど重要なんだから。
……もっとも。
「機嫌が悪い」
と言って英作文は教えなかったあたり、器は小さい。
でも、そこが実にハミルトン様らしい。
■ジョージ記録(補足ログ:業平に勝った男)
『サエキ事変ノート:文より肉、雅より雑』
十一月下旬。
現状:
エドワード
業平を勝手に仮想敵認定。
遠距離の恋文文化に敗北しかけるも、近距離常駐という物理戦術へ切り替えた。
拓海
「手紙は遠いから届く。お前はここにいる」
という真理を、英作文から逃げながら吐いた。
本人はたぶん何も考えていない。
ジョージ
「いやー……傑作だね(笑)。ハミルトン様、郵便受けの確認はやめたのに、今度はサエキの椅子との距離を毎回測ってるんだ。……あぁ、これこそが“究極の近距離管理(予約)”ってやつだよ(笑)」
(追記)
その夜、ハミルトン様は図書室の席取りに三十分早く現れた。
平安貴族も、そこまではしない。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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