第十九話 「近代文学は、闇(病み)が深い」という話
何気に今までより書くのに倍の時間がかかってる気がする。
放課後。寮の共用スペース。
ソファに沈みながら、拓海は手紙を読んでいた。
日本にいる幼馴染(女→ココ大事)からだ。
「……晩飯が肉じゃがか」
いいな、菜摘は料理上手いしな。
……平和だ。
ドサッ。
机に、何かが置かれる。
重い。
嫌な予感しかしない。
「タクミ、これ――」
「だが断る!!!」
振り返らない。
即答。
「……まだ、何も言っていないぞ」
「その顔が一番ヤバいんだよ!」
振り返る。
日本語の本。
しかも複数。
終わった。
「……お前さ」
一冊、持ち上げる。
「なんで“闇深いとこ”だけピンポイントで集めてくんの?」
夏目漱石。
森鴎外。
芥川龍之介。
太宰治。
「これ全部やったら、俺の留学期間終わるわ」
「効率の問題だ」
迷いがない。
一冊、差し出される。
『こころ』
「これは何だ」
「……裏切りだな」
「親友裏切って、後悔して、詰む話」
沈黙。
エドワード、真顔でメモ。
「おいやめろ」
「なぜだ」
「お前がやると“計画書”になる」
次。
『舞姫』
「これは?」
「……女孕ませて、出世のために捨てて帰る話」
沈黙。
エドワードの手が止まる。
明らかにドン引きして本を閉じる。
「…………」
「……タクミ」
「なんだよ」
「日本の文学は」
一拍。
「…………タクミ。日本の文豪は全員『ヤバイ』のか?」
「違ぇよ!」
即答。
「……まあ、情緒がバグってるやつは多いかもしれんがな」
エドワードは少し考える。
「……私も」
胸に手を当てる。
「お前を捨てて逃げれば」
「おいやめろ」
「文学になるのか?」
「は?なるわけねぇだろが!」
沈黙。
エドワードは何も言わない。
手元の本を見ている。
「……ヤバイな日本近代文学は」
ぽつり。
「闇深いな」
拓海は手紙を握り直し、平和な日本に思いをはせる。
「……あーー、肉じゃが食いてぇ」
ある意味平和な、寮の夕方。
暖炉の火が、パリチ、と、小さく爆ぜた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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