第十七話 「合理的ブシドー」の話
拓海君のお祖父さんは趣味で道場やってます。
午後、中庭へ続く通路。
人通りは少ない。
その空気の中で、
「……おい」
低い声が落ちた。
エドワードは足を止める。
前に立っているのは、上級生二人。
「最近、調子に乗ってるらしいな」
「下級生のくせに、随分偉そうだ」
周囲の空気が、わずかに張る。
エドワードは表情を変えない。
「事実を述べているだけだ」
「……は?」
一人が一歩前に出る。
「誰に口利いてんだ、お前」
「ハミルトンだが?」
火に油。
手が伸びる。
、、その瞬間。
「…おい」
別の声が割り込む。
空気が、少しズレた。
気づいたときには、
上級生の腕は、軽く弾かれていた。
痛そうには見えない。
しかし、
それ以上、前に出られない。
「……何してんだ?」
拓海だった。
制服は着崩れたまま。
ポケットに手を突っ込んでいる。
いつもの顔。
「関係ねぇやつは引っ込んでろ」
「関係あるだろ」
拓海は、少しだけ首を傾ける。
「俺のダチだ」
一瞬。
空気が止まる。
エドワードは何も言わない。
上級生が舌打ちする。
「……留学生が、調子乗るなよ」
もう一度、手を出そうとする。
………次の瞬間。
「っ……!」
体勢が崩れる。
倒れたわけではない。
ただ、“立てない”。
「……は?」
もう一人が固まる。
拓海は、何もしていない顔をしていた。
「だから言っただろ」
静かに言う。
「やめとけってさ」
少しの沈黙。
上級生は顔を引きつらせ、立ち上がる。
「……チッ」
それ以上は何も言わず、去っていった。
通路が静かになる。
「タクミ」
エドワードが口を開く。
「今のは何だ?」
「何って」
「動きが見えなかった」
「大げさだな」
エドは真剣だ。
「……お前は、ニンジャの家系なのか?」
「違ぇよ」
即答。
「前にも言ったかもしれねぇけどさ」
拓海は少しだけ肩をすくめる。
「爺さんに叩き込まれただけだ」
「叩き込まれた」
「剣道だよ」
一拍。
「二段までは取った」
エドの目が、わずかに変わる。
「……武道か」
「まあな」
少しだけ視線を逸らす。
「高校でもっとやりたかったんだけどな」
ぽつりと落ちる声。
「こっち来ちまったからな」
ほんの少しだけ、悔しさが混じる。
エドワードは、それを見る。
何も言わない。
ただ、静かに言った。
「……そうか」
一拍。
「それが“ブシドー”か」
「違うと思うけどな」
「だが」
エドは、まっすぐ拓海を見る。
「合理的だ」
「は?」
「無駄がない」
沈黙。
拓海は少しだけ笑った。
「褒めてんのか、それ」
「事実を述べている」
「お前、そればっかだな」
二人は歩き出す。
さっきと同じ通路。
けれど、さっきより少しだけ、距離が近かった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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