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第百七十二話 「誇りとは、他者の輝きを自分の所有物だと錯覚することで成立する、不完全な感情である」という話

夜中なのに孤独のグルメ見てたらおなかすいてきた・・・

クレストフィールド学院

五月。サマータームの放課後。

ラグビーのハウス対抗・練習試合は、終盤に差しかかっていた。


自陣深く。

こぼれたボールを、拓海が拾う。


一瞬だけ、視線が上がる。


空いた。


次の瞬間、もう走っている。


「行け、サエキ!」

「ぶち抜け!」


声が追いかけてくる。

だが、拓海は振り返らない。


一人かわす。

もう一人、ぶつかる。

泥が跳ねる。


それでも止まらない。


本来ならパスの場面だった。

だが、拓海はそのまま突っ込んだ。


力任せの、雑な突破。

それでも―抜ける。

トライラインを踏む。


歓声。


一拍遅れて、波のように広がる。


「うおおおお!!」

「サエキ!!」


押し倒される。

笑う。


白い歯が、泥の中でやけに目立つ。


少し離れた、校舎の影。


エドワードは、腕を組んだままそれを見ていた。


動かない。

ただ、視線だけが追っている。


(……遅い)


心の中で、短く切り捨てる。


(あのステップは、三割は失敗する)


続けて、もう一つ。


(無駄が多い)


―それでも。


言葉は、そこで止まる。


歓声の中で、拓海が笑っている。


後輩に肩を叩かれ、背中を押され、何かを言い返している。

輪の中心。

泥だらけのまま。


(……ああ)


わずかに、息が落ちる。


(問題ないな)


それだけだった。


「……ハミルトン」


横から、声。


ジョージがカメラを構えたまま、ちらりと視線を寄越す。


「今、ちょっと上がったよ」


「何がだ」


「口角」


一拍。


「0.5ミリくらい」


シャッター音。


「……気のせいだ」


エドワードは視線を外す。


「私は、あのような非効率な動きに、不快感を覚えているだけだ」


「へぇ?」


ジョージは笑う。


「でも今の、昨日君が言ってたやつ、そのままだよ」


エドワードの動きが、わずかに止まる。


「最短直線で押し切るってやつ。ほら、あれ」


グラウンドを指す。


拓海が、まだ笑っている。


「ちゃんと使ってるじゃん。君の理屈」


「…………」


沈黙。


視線が、もう一度戻る。


(使っているのか)


一瞬だけ。


ほんの一瞬だけ。


(……当然だ)


すぐに、思考を閉じる。


拓海が、ふとこちらを見る。


気づいたらしい。


手を上げる。


「おう、見てたか!」


声は届かない。


だが、口の形で分かる。


笑っている。


変わらない顔で。


エドワードは、何も返さない。


ただ。

ほんのわずかに、視線を逸らす。


「……タクミ」


誰にも聞こえない声で、呟く。


「調子に乗るな」


一拍。


「その程度の得点で」


言葉を続ける。


「後で上書きしてやる」


それだけ言って、踵を返す。


歩きながら。


思考が、少しだけ遅れてついてくる。


(……私のいない場所で)


一瞬。


(成立している)


足が、わずかに止まりかける。

だが、止めない。


(……問題ない)


そのまま歩き出す。


■ジョージ幕間(観測ログ:芽生え始めた自尊心編)


『サエキ事変ノート:誇りと拗ねの境界線編』


「いやー、いい顔してるね」


ジョージは写真を確認しながら笑う。


「認めないって顔で、全部認めてる」


一枚、拡大。


泥だらけで笑う拓海。


「サエキは気づいてないけどさ」


もう一枚。


少し離れた場所で立つエドワード。


「今のあれ、完全に“自慢”だよ」


シャッター音。


「“あいつ、俺のだ”って顔してた」


一拍。


「―なのに、本人は否定してる」


肩をすくめる。


「面倒くさいねぇ、ほんと」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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