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第百六十七話 「平行線とは、互いを見つめ合いながらも、決して混じり合わない二つの正義のことである」という話

拓海はどう変わっても拓海だと思うけどね

クレストフィールド学院 四月。


イースターが明け、学園の景色は一気に色を取り戻していた。

芝は柔らかく光を反射し、木々は新しい葉を広げている。


冬の硬さは消え、すべてが“次へ進もうとする”季節。


その流れの中で。

拓海もまた、変わり始めていた。


放課後。


グラウンドの端から、笑い声が聞こえる。


後輩に何かを教えながら、軽く頭を叩き、冗談を飛ばす。

寮の仲間と声を掛け合い、自然に輪の中心へ入っていく。


一ヶ月前とは、明らかに違う。


ここでの生活に馴染み、

ここでの役割を持ち、

ここで“必要とされる側”になっている。


それは、確かな変化だった。


「……タクミ」


その動きを、止める声。


振り返らずとも分かる。


十メートル。


そこに、エドワードがいる。


「なんだよ、エド」


拓海は足だけを止め、軽く肩越しに答える。


「今からジョージと、後輩の稽古見に行くんだよ。忙しいんだ」


振り返らない。


それが、今の距離だった。


「……お前は、変わっていくな」


静かな声。


だが、その奥にあるものは、静かではなかった。


「……今の、その無邪気で、無自覚な光のままで」


一拍。


「私の設計(予約)の中にいろと言ったはずだ」


言葉が、わずかに揺れる。

それは命令ではない。

願望に近かった。


エドワードの視界には、今の拓海が異物のように映っていた。


自分の知らない場所で笑い、

自分の知らない関係を築き、

自分の知らない役割を持ち始めている。


(削られていく)


静かに、そう感じていた。


(純度が)


自分の知っている“タクミ”が、少しずつ別の形へ変わっていく。

それは、恐怖だった。


「お前の言う『設計』ってさ」


拓海が、ようやく振り返る。


その目は、もう逸らしていない。


「俺が一生、お前の十メートル先で笑ってる人形になるってことだろ?」


真正面から、言い切る。


「……」


エドワードは、否定しない。

否定できない。


「悪いけど」


拓海は肩をすくめる。


「俺は成長したいんだよ」


一拍。


「お前の知らない俺になって」


さらに一拍。


「お前の知らないとこで失敗して」


軽く笑う。


「それで笑ってたいんだ」


その言葉は、軽いのに重かった。


「……お前がそれを許せないなら」


最後に、はっきりと言う。


「俺たち、一生平行線のままだな」


静寂。


風の音だけが通り抜ける。


「…………」


エドワードは、言葉を失った。


譲歩。


その概念は、彼の世界には存在しない。


常に最適解を選び、

常に支配し、

常に管理する。


それが正しいと信じてきた。


しかし。

それを貫けば。


(壊れる)


理解してしまっている。


(私が愛したものが)


拳が、わずかに震える。


「……タクミ」


かすれた声。


「お前は……私の管理(予約)を越えて」


一拍。


「醜く……あるいは、美しく……変化するというのか」


「醜くても、俺の勝手だろ」


即答。


迷いがない。


「……」


その言葉が、静かに突き刺さる。


拓海は、もう振り返らない。


「じゃあな。遅れるとあいつらうるせぇから」


軽く手を振る。


そして、そのまま走り出した。


残されたのは。

春の光と、伸びた影。


エドワードは、その影を見つめた。


長く、細く、歪んだ自分の輪郭。


(……タクミ)


思考が、ゆっくりと沈む。


(私は)


一拍。


(どこまでなら、許容できる)


初めての問いだった。


そして。

まだ、答えは出ていない。


■ジョージ幕間(余韻強化)


「……うわぁ」


ジョージは、遠巻きにその光景を眺めて、素直に引いた。


「やったねサエキ」


小さく笑う。


「ついに言った」


ポケットからスマートフォンを取り出すが、撮影はしない。

これは記録じゃない。


“分岐点”だ。


「平行線、ね」


視線を細める。


「いい言葉だけどさ」


肩をすくめる。


「あの人に通じるかな」


一拍。


「直線って、曲げられるんだよね」


軽く笑う。


「力技で」


エドワードの背中を見る。


動かない。

でも。

止まってもいない。


「さて」


小さく呟く。


「折れるか、歪むか」


さらに一拍。


「それとも、世界の方を曲げるか」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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