第百六十六話 「未来設計とは、相手の可能性を信じることではなく、相手を最も美しく輝く檻に閉じ込めることである」という話
やばい書き溜めが減ってきた
イースター休暇明け、放課後の談話室。
窓の外はまだ薄く冷たいが、室内にはすでに春の気配が入り込みつつあった。
人の声と笑いが混ざり合い、空気がゆるく揺れている。
その中心で。
拓海は、いつものように人に囲まれていた。
「だからさ、今夜やろうぜ。食堂でクソゲーのトーナメント」
クラスメイトのノートに落書きをしながら、平然と言う。
「負けたやつは購買パン奢りな。逃げんなよ?」
「サエキ、お前絶対ルール途中で変えるだろ」
「変えるに決まってんだろ、クソゲーだぞ?」
笑いが広がる。
誰かが突っ込み、誰かが乗っかり、また笑う。
その輪の外。
正確に、十メートル。
エドワードは、静かに立っていた。
その視線は、もう嫉妬だけではない。
もっと冷たく、もっと整った“設計図”のようなものを宿している。
(タクミ)
内側で、言葉が組み上がる。
(お前は、そのままでいい)
拓海の笑い方。
距離の取り方。
人との接触の仕方。
すべてが、過不足なく機能している。
(その、無防備な光)
一拍。
(それが、私に欠けている最後の要素だ)
エドワードにとって、拓海は単なる“好きな相手”ではない。
自分が継ぐべき未来。
ハミルトンという巨大な構造。
その中で、どうしても補完できない“人間性”を埋める存在。
「……タクミ」
声をかける。
「その、無秩序な交友関係」
一拍。
「そろそろ、整理(最適化)を検討してはどうだ」
拓海が、ペンを動かしたまま顔を上げる。
「はぁ?」
一瞬の間。
「効率化ってなんだよ」
肩をすくめる。
「友達と遊ぶのに効率とかねぇだろ」
視線は軽い。
だが、その言葉は真っ直ぐだった。
「お前さ」
ペン先を止める。
「俺のこと、なんか……便利なもんだと思ってねぇ?」
空気が、わずかに揺れる。
「“お前が必要だ”ってさ」
一拍。
「それ、“俺”じゃなくて、“俺の性格”が欲しいだけだろ」
静かに、言い切る。
談話室のざわめきが、一瞬だけ遠のいた。
エドワードの瞳が、わずかに細くなる。
「私は、お前を高く評価している」
声は揺れない。
「将来、お前が私の隣で――」
「隣で、なんだよ」
被せる。
拓海は笑っていた。
だが、その笑いはいつもより少しだけ鋭い。
「お前の仕事、手伝うのか?」
一拍。
「決まった時間に、決まった顔して」
さらに一拍。
「都合よく“人当たりのいいやつ”やるのか?」
軽く息を吐く。
「御免だね」
言い切る。
「俺はさ」
ペンを机に置く。
「明日は今日と違うバカやりたいんだよ」
振り返らずに続ける。
「同じ場所に置かれて、“保存”されるとか」
小さく笑う。
「それ、もう生きてねぇだろ」
そのまま立ち上がる。
「ほら行くぞ、トーナメントの準備すっぞ」
誰かの肩を叩く。
また笑いが戻る。
拓海は、そのまま輪の中へ戻っていった。
エドワードは、動かない。
ただ、その背中を見つめている。
(……タクミ)
思考が、静かに沈む。
(お前は、変化を望むのか)
理解はしている。
それが“自然”であることも。
(だが、それは)
わずかに目を閉じる。
(私の設計における、誤差だ)
一拍。
(お前が、お前でなくなる前に)
呼吸が整う。
(やはり、私が管理すべきだ)
結論は、揺れない。
(変化も含めて、すべて)
「……予約する」
その声は、あまりにも静かだった。
■ジョージ幕間(強化版)
「……あーあ」
ジョージは、廊下の柱にもたれながら小さく笑った。
「言っちゃった」
視線の先。
談話室の中では、拓海がまた笑っている。
何もなかったように。
「サエキ」
ぽつりと呟く。
「君、ちゃんと見えてるね」
一拍。
「でもさ」
口元が歪む。
「見えてても、止まらないタイプだよね」
エドワードの方へ視線を移す。
動かない。
ただ、立っている。
「で、あっちは」
小さく息を吐く。
「止まれないタイプ」
肩をすくめる。
「そりゃ噛み合わないわ」
カメラを構える。
静止したままのエドワードを、切り取る。
「……これ、もう」
一拍。
「“どっちが折れるか”の話じゃないね」
さらに一拍。
「どっちが壊れるか、だ」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




