表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/375

第百五十三話 「正しさとは、感情ではなく報告書として処理される」という話

何もしてないのに全部の災難が降りかかってる拓海君w

てかジョージ・・・あんた・・

日本、夜。佐伯家のリビング。


テレビの音量は絞られ、加湿器のかすかな駆動音だけが、静かな空間に溶けている。

父は新聞を広げ、母は湯呑みを手に、ゆっくりと茶を啜っていた。


そこへ、不意に端末が震える。

英国にいる拓人からのビデオ通話だった。


『……で? 何だ。事件でもあったのか』


画面の中の拓人は、相変わらず死にそうな顔をしている。


「……違う」


短く否定する。


「……家族の方だ。……拓海の件で、報告がある」


その一言で、空気が変わった。


父の手が、新聞の上で止まる。


「……異常でもあるのか」


「ある」


一拍。


「神経学的にも、分かりやすい異常パターンだ。……脳が、外部要因に侵食されている」


母が、静かに視線を上げた。


「……イギリスのお友達のことかしら」


「友達ではない」


即答だった。


「……もっと面倒な存在だ。……“予約”してくるタイプの人間」


拓人は、淡々と続ける。


距離は保たれている。接触もない。

だが思考への干渉が発生している。

物理的に遮断しても、脳内に残留している。


沈黙。


父が、ゆっくりと口を開く。


「……違法性は」


「ない。……合意の上での距離維持だ」


「証拠は」


「ない。……形を持たない執着だ」


「本人の拒絶の意思は」


「……ある」


一拍。


「でも、“意識している”時点で、……すでに主導権を握られている」


沈黙が落ちる。


父は新聞を静かに畳んだ。


「……ならば」


その声は、完全に職務のものだった。


「現時点で、警察組織としての介入対象外だ」


一拍。


「制度に触れない以上、国家は動かん」


母が、湯呑みを置く。


「……でも」


柔らかな声。


「佐伯の家としては、“相応しくない”わね」


その一言に、空気の温度がわずかに変わる。


拓人が、画面越しに二人を見据えた。


「放置すれば、……戻らない可能性がある」


「拓海の自己認識が、……外部の論理に上書きされる」


父は立ち上がった。


「……国外案件だ。直接は動かん」


一拍。


「……だが」


視線が、わずかに鋭くなる。


「詩織に任せる。……現場の調整は、あちらの権限内だ」


母が、窓の外の闇を見つめる。


「……“選び直させる”ことは、できるでしょう」


静かな声。


「……菜摘ちゃんという、正しい光を見せてあげれば」


その言葉に、誰も反論しなかった。


国家は動かない。

だが、家は動く。


拓海の運命は、日本で静かに確定した。


******************


『支配とは、許可されて初めて成立するという話』


ロンドン。ハミルトン邸、書斎。


重いカーテンが外界を遮断し、室内には濃密な静寂が満ちている。


「……資金の動きが多いな、エドワード」


低く、揺るがない声。


ハミルトン伯爵は、書類から目を上げた。


「問題ありません」


エドワードは微動だにしない。


「……正当な、未来への投資です」


「投資先が偏っている」


一拍。


「……特定の個人に対してな」


沈黙。


「……効率の問題です」


エドワードの声は静かだった。


「……一点を固定すれば、……全体が整う」


伯爵は、わずかに首を振る。


「違う」


短く、断定する。


「それは投資ではない」


一拍。


「―我が家のやり方ではない」


空気が凍りつく。


「……執着だ」


沈黙。


「一つ、忠告しておく」


伯爵の視線が、まっすぐに息子を射抜く。


「外交官の関係者に対して、資金で不透明な介入をするな」


「それは“家”を危険に晒す。……美しくない」


エドワードは、何も言わない。


「お前一人の問題ではない」


一拍。


「ハミルトンの名を使うなら、……やり方を選べ」


静かに、しかし確実に。


「回りくどい手段で“手に入れる”な」


わずかに間を置き。


「―選ばせろ」


沈黙。


その瞬間、エドワードの口元が、ほんのわずかに動いた。


「……了解しました」


静かに、しかし確実に。


「正面から、……彼を、……こちらに来るよう“選ばせます”」


■ジョージ幕間

『サエキ事変ノート:総力戦開始編』


日・英の両家が、ついに「拓海」という名の座標を巡って動き出した。


現状:


佐伯家: お姉ちゃん(詩織)を尖兵に、菜摘を「正常化の弾丸」として撃ち込む準備を完了。


ハミルトン家: 伯爵による「正面突破」の許可。エドワード、遠慮なく「公爵家の威光」で拓海を迎えに行くフェーズへ。


サエキ: 家族には「デバッグ」され、エドワードには「正面から宣戦布告」されるという、逃げ場のない大惨事へ。


(追記)

「……ヒ、ヒヒッ……!!」

ジョージは、両家が動き出した情報を整理して、転げ回りながら笑う。

「……サエキ、君の人生、……今日から『怪獣大戦争』になったよ! ……おめでとう、君は二つの巨大な『正義エゴ』に挟まれて、……塵一つ残らない最高の”生贄”だね(笑)」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ