幕間(オマケ) 「観測とは、繰り返し発見されることで、逆に現在へと接続される」という話
まぁうん、こんな未来があるかも的な?
ハミルトン邸、書庫。
整理された資料の一角。
だが、その中にだけ、明らかに“何度も掘り返された形跡”のある箱があった。
「……また、これですね」
悠馬が、静かにノートを取り上げる。
「うわ、出た」
ノアが即座に反応する。
「“サエキ事変ノート”。何回目だよこれ」
悠馬が、少し考える。
「……五回目。いえ、六回目かもしれませんね」
「そんな見つける?」
「意図的に隠されていないのかもしれません」
「いや逆に怖いって、それ」
ノアがノートを奪い取るように開く。
数秒。
「……っ、はは……」
吹き出す。
「やっぱ無理これ。“バニラアイス・パッチ適用、対象死亡寸前”って、何回見ても笑うんだけど」
「記録としては正確なのでしょうね」
「父さん何されてたのほんと」
ページをめくる。
「“ハミルトン、Wi-Fi化に成功”……いや、意味わかんないってこれ」
「当時の比喩表現でしょう」
「センスどうなってんのこの人」
笑いながら、さらに読み進める。
「“サエキ、精神的に詰み”……いや、言い方が容赦なさすぎる」
「簡潔で分かりやすいですね」
「冷静に評価しないで」
ひとしきり笑って。
ノアが、ふと手を止める。
「……でさ」
「はい」
「これ、前も言ったけど」
一拍。
「“ジョージ”って誰?」
悠馬は、ノートに視線を落とす。
「……記録者の特定は、未だにできていません」
「だよね」
「拓海父さんの同級生である可能性が高い、という推測止まりです」
「でもさ」
ノアが、少しだけ真顔になる。
「こんだけ近くにいて、この情報量で、名前残ってないの……普通におかしくない?」
「ええ」
即答。
「極めて不自然です」
沈黙。
「……前も、ここで止めたよね」
「はい。深入りは避けるべきと判断しました」
「で、また見つけた、と」
「ええ」
ノアが、小さく息を吐く。
「……さすがにさ」
一拍。
「六回目は、無視できなくない?」
悠馬は、少しだけ考える。
「……同意します」
静かに。
「今回に限り、確認を行いましょう」
「よしきた」
ノアが端末を取り出す。
「軽くだけね」
「お願いします」
検索。
「……やっぱ出ない」
「想定内です」
「でも」
ノアの指が止まる。
「……アクセスログある」
「内容は」
「このノートの内容、外から参照されてる」
悠馬の視線が、わずかに鋭くなる。
「……どのレベルですか」
「こっちから見えない権限」
沈黙。
「……続けてください」
さらに潜る。
一段。
二段。
三段。
「……」
手が止まる。
「ノア?」
「……これ」
画面を、ゆっくり回す。
そこに表示されていたのは――
MI6
所属職員データ。
その中の一人。
「……ジョージ」
沈黙。
「……は?」
ノアが、素で声を漏らす。
「なんで国家機関にいんの、この実況者」
「不明です」
悠馬は、静かに答える。
「ですが」
一拍。
「これで、これまでの不自然さは説明可能です」
「いや納得したくないんだけど」
ノアが顔をしかめる。
「……これさ」
一拍。
「前から、見られてたってこと?」
その瞬間。
画面の隅に、小さなログが表示される。
“閲覧:確認済み”
沈黙。
「……うわ」
ノアが、ゆっくり呟く。
「タイミング最悪すぎない?」
悠馬は、静かに結論を出す。
「……この人物には」
一拍。
「関与しない方が賢明です」
「いやもう遅くない?」
「遅いですね」
どこかで。
ポップコーンが弾ける音がした気がした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




