幕間 「観測とは、理解することではなく、対象を逃がさないための座標特定である」という話
まぁ、うん、こんな未来もあるのかなって(笑)
数十年後。ロンドン。
MI6本部の一室。
重厚なデスク。
壁面いっぱいに展開されたモニター。
都市と人間の動きが、すべて数値と線で可視化されている。
その中心に、“彼ら”の座標があった。
「……君のレポートは、常に正確だ」
デスクの向こう、上司――“M”が静かに言う。
「特に、あのハミルトン伯爵に関するプロファイリングは、
我が局のどのベテランよりも鋭い」
「光栄です」
男は、軽く肩をすくめた。
手には、高級なポップコーンの袋。
「……まあ」
一粒、口に放り込む。
「“学園時代”から、ずっと特等席で観測していましたからね」
画面が切り替わる。
そこに映るのは――
伯爵となったエドワード・ハミルトン。
そして、その隣で書類に追われながらも、完璧に機能している佐伯拓海。
「……最悪だ。……この書類終わんねぇよ、……バカタレ」
ぼやきながらも、手は止まらない。
「ハミルトン伯爵が、日本から来た『佐伯氏』を、
ハミルトン・グループの最高顧問に据えた件」
Mが続ける。
「……君の予測通りになった」
「ええ」
ジョージは、あっさりと頷く。
「ハミルトン様は、急ぎませんから」
視線は、モニターから一切離れない。
「……何十年かけても、逃げ場を“制度”で埋める」
一拍。
「それが、あの方のやり方です」
沈黙。
Mは、少しだけ目を細める。
「……君は、理解しているのか?」
「何をです?」
「それが、“執着”ではなく、“支配”だということを」
ジョージは、少しだけ笑った。
「ええ」
迷いなく。
「だから面白いんですよ」
ポップコーンを、もう一粒。
「……で。君は、これからも彼らを追うのか?」
「当然です」
即答。
「僕の人生は、彼らの“予約”を――」
わずかに言葉を選ぶ。
「……一番近くで、観測するためにありますから」
その声に、軽さはある。
だが、その内容に一切の冗談はない。
モニターには、変わらず二人の姿。
制度の中で、逃げ場を失った関係。
それを、誰よりも正確に、誰よりも楽しそうに記録し続ける男。
それが、ジョージだった。
■極秘ファイル:サエキ事変・最終観測ログ
【事案:ハミルトン包囲網の完成】
現状:
エドワード:
英国の経済と、サエキの生活を制度的に占有。
逃走経路はすべて封鎖済み。
サエキ:
自由を求めた結果、ハミルトンという“国家インフラ”の一部として最も安全に拘束。
ジョージ:
MI6の権限を用い、ハミルトン邸に公式監視網を構築。
観測は常時稼働中。
(追記)
「……サエキ」
ジョージは、モニター越しに呟く。
「君の言った“自立”はね」
一拍。
「ちゃんと達成されてるよ」
ほんの少しだけ、楽しそうに。
「……ただし、“ハミルトン家の中で”だけどね」
さらに。
「おめでとう」
ポップコーンを噛みながら。
「君は、英国で最も安全な“機密”になった」
その瞬間。
モニターの中で、エドワードがわずかに視線を上げる。
「……タクミ」
静かな声。
「外の監視は、ノイズだ」
一拍。
「お前のすべては、すでに私の内側にある」
拓海が、顔をしかめる。
「……ジョージ」
ぼそりと呟く。
「……お前、あっち側行ったのかよ……」
ジョージは、それを聞いていない。
ただ、モニターを見ている。
そして、静かにメモを更新する。
“対象、完全囲い込み状態に移行”
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




