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第百四十八話 「外側からの修正処理、あるいは物理的距離が意味をなさないほどに深く侵された境界」という話

お姉ちゃんにとって拓海はずっとかわいい拓ちゃんだしなー

変なのに取られたらそりゃ嫌だろうて

沈黙。


風が通る。

窓際のカーテンが、わずかに揺れる。

光が揺れ、床に落ちた影の輪郭が一瞬だけ歪む。


誰も動かない。


「―結論から言うわね」


詩織が、先に口を開いた。


その声は低く、抑えられている。

だが、社交の場で数百の視線を制してきた“決定の声”だった。


空気が、従う。


「これは、“関係”ではない」


一拍。


その一拍が、意味を持つ。


「ただの“侵入”よ」


エドワードは何も言わない。

否定も、弁明もない。


その沈黙は、曖昧さではなく、受理の形式だった。


詩織は、それを確認するように、わずかに顎を引く。


「なら、対処は単純」


視線が、ゆっくりと拓海へ移る。


逃がさない角度。


「……切るわ」


「は?」


拓海の声だけが、場にそぐわない。


「何を―」


「全部」


即答。


重ねる余地を与えない。


「環境。接触経路。視界。……思考の引き金」


言葉が、順番に並ぶ。

一つひとつが、切断対象として定義されていく。


「一度、完全に遮断する」


拓海の喉が、わずかに鳴る。


理解ではなく、反射として。


「……は? ……いや、ちょっと待て、何言って―」


「いいから、来なさい」


詩織が、腕を取る。


その動きは速くない。

だが、迷いがない。


だからこそ、抗う余地がない。


「……っ、ちょ、離せよ姉貴! 俺は―」


「離さない」


即断。


「今のあなたに、まともな選択権はないわ」


一拍。


視線が、正面から固定される。


「半分、取られているもの」


その言葉は、感情ではなく、診断だった。


空気が、わずかに沈む。


エドワードは動かない。


”ただ、そこにいる”。


それだけで、場の一部を占有している。


詩織は、振り返らない。


「―あなた」


呼びかけ。


「これは“交渉”ではないわ」


一拍。


「外交上の“通告”よ」


その言葉に、比喩はない。

すべてが、そのままの意味で成立している。


「これ以上、私の弟に関与するなら」


わずかに、間。


「あなたの“場”ごと切る」


さらに、静かに重ねる。


「ハミルトンの名に傷をつけてでも、ね」


沈黙。


その言葉は、脅しではない。

実行可能な手段の提示だった。


エドワードの視線が、わずかに動く。


光が、瞳の奥で屈折する。


「……興味深い」


わずかに、口元が動く。


「お姉様は、どこまで“外側”で干渉できるのか」


詩織は、微笑む。


それは人に向けるものではない。


「試してみる?」


温度のない問い。


すでに答えは決まっている。


沈黙。


数秒。


時間だけが、正確に流れる。

エドワードは、何も言わなかった。


ただ一言。


「……了解しました」


その声に、後退の気配はない。

ただ、“今ではない”と判断しただけ。


詩織は、それを確認しない。

そのまま、歩き出す。


「行くわよ」


拓海の腕を引く。


廊下を抜ける。

光が変わる。

距離が開く。


それでも。


(……いる)


思考の奥底に、残る。


(……いねぇのに、……消えねぇ)


視界から消えても。


気配が消えても。


“中心”だけが、残る。


「……っ」


足が止まりかける。


「止まらない」


詩織の声。


「前だけ見なさい」


一拍。


「―外に出るの」


外気。


冷たい空気が肺に流れ込む。


「……はぁ……」


呼吸が、わずかに整う。


だが。


(……残ってる)


消えていない。


むしろ。


(……静かになった分、はっきりする)


「……はぁ……、……何なんだよ……」


詩織は、真正面から弟を見る。

逃がさない距離。


「いい?」


静かに。


「今のあなたは、正常じゃない」


否定しようとする。


だが。

言葉が出ない。


「“不在”に振り回される時点で、異常よ」


一拍。


「それは、もう入っている」


拓海の目が、わずかに揺れる。

詩織は、結論を置く。


「――だから、一度すべて切る」


「……」


「私の監視下でね」


■ジョージ幕間


『サエキ事変ノート:距離侵食編・第15節』


・佐伯詩織、強制介入を実行

・戦闘、“外側の論理”フェーズへ移行


現状:


サエキ:

強制的にフィールド外へ移動。思考は依然としてハミルトンにロック中。


詩織:

環境遮断を開始。“外側”からの修正処理に着手。


ハミルトン:

静止。一時後退。ただし、内部フラグは保持済み。


(追記)


「……あーあ」


ジョージは、門を出ていく車を眺めながら呟く。


「……ついに“物理”で殴ってきたよ、この人」


一拍。


「……でもさ」


「電源切ったくらいで消えるなら、こんな面白くならないよね(笑)」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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