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第百二十八話 「尊大な羞恥心とは、獣に変身する呪いではなく、対象を確実に包囲するための戦術的口実である」という話

エドワード君、日本語完全マスター(しかしずれてる)

クレストフィールド学院

新学期。学園、正門前。


冬の空気は、肺に刺さるほど冷たかった。

その冷たさに背中を押されるように、拓海はゆっくりと一歩を踏み出す。


(……帰ってきちまった)


ロンドンの「現実」から。

エドワードという名の「狂気」へ。


校門の鉄柵が、やけに重く見える。


「あ、サエキ。お帰り」


横から、軽い声。


ジョージが、いつもの調子でひょいと現れる。


「魂、日本に置いてこなかった?」


「……置いてきたかったけどな」


短く吐き捨てる。


「……エドワードは?」


「あー、ハミルトン?」


ジョージは少しだけ考えるように空を見てから、


「……今、『変身』してるよ」


「……は?」


その瞬間。


正門横の植え込みが、風もないのに大きく揺れた。


ガサリ、と。


次の瞬間。


黒い影が、そこから飛び出す。


「タクミ!!」


「うわっ!!」


反射的に一歩下がる。


「……獣かよ!!」


現れたのは、エドワードだった。


ただし―


その肩には、異様なまでに精巧な虎の毛皮が掛けられている。

ただの衣装ではない。光沢、質感、存在感。

それ自体が一つの“支配の象徴”のようだった。


「タクミ」


ゆっくりと、一歩近づく。


「私は、お前のいない休暇の間に、『山月記』を読了した」


「……嫌な予感しかしねぇ」


「そして理解した」


一拍。


「私は、お前を失う羞恥心と尊大さの果てに」


わずかに、目が細められる。


「……“執着という名の獣”へと、変身を完了させた」


沈黙。


「……いやただのコスプレだろ!!」


即答。


「茂みから出てくるな!! 通報されるぞ!!」


「否定する」


間髪入れずに返る。


「これは内面的獣性の、視覚的プロトコルだ」


「プロトコルにするな!!」


エドワードは構わず続ける。


「中島敦は言った。“己の、珠にあらざるを惧れる”と」


「やめろ」


「だが、私は違う」


「やめろって言ってんだろ」


一歩、踏み込む。


「……私は」


低く。


「お前が、私の檻(予約)にあらざることを、惧れたのだ」


「文学を私物化するな!! 中島敦に謝れ!!」


横で、ジョージがポップコーンを口に放り込む。


「あはは、見て見てサエキ」


軽い声。


「ハミルトン、“君が可愛すぎるという絶望のせいで虎になった”って解釈してるよ」


「最悪な責任転嫁だな!!」


エドワードは、静かにマントを翻した。


その動きだけは、やけに洗練されている。


「タクミ」


視線が、逃がさない。


「お前という“獲物”を見失った、あの冬のくさむらで」


一拍。


「私は、吠え続けた」


「……」


「“サエキ、予約。サエキ、管理”と」


「ただの不審者だろそれ!!」


周囲の空気が、わずかに引く。


だがエドワードだけは、全く気にしない。


「安心しろ」


一歩。


拓海の進路を、完全に塞ぐ。


「お前が“人間”でいられる時間は終わった」


「終わってねぇよ」


「今日から、この学園は私のテリトリーだ」


静かに。


「逃げようとすれば」


わずかに、口元が歪む。


「……優しく、噛み砕いてやる」


「牙を出して愛を語るな!!」


即座に叫ぶ。


「アイアンサイド先生ーー!! 猛獣が出てまーす!!」


■ジョージ締め


ジョージの記録(正門、監視カメラの死角にて):


本日、新学期初日。


対象、帰還。


同時に―


ハミルトン、状態更新。


「……あーあ」


小さく呟く。


「とうとう来たね、“猛虎フェーズ”」


ノートに書き込む。


・山月記 → 誤読完了

・羞恥心 → サエキ起因に変換

・獣化 → 正当化成功


「……順調に悪化してる」


視線を上げる。


正門前。


逃げようとする少年と、塞ぐ獣。


捕食ハグまで、あと数秒ってとこかな」


一拍。


「サエキ、ご愁傷さま」


軽く笑う。


「君の平和、今ここで絶滅したよ」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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