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第百二十九話 「境界とは、相手に与えられるものではなく、自分で引いた瞬間に初めて成立する」という話

エドワード君、そういう態度じゃ来てくれないよ?

クレストフィールド学院

放課後。廊下。


人の気配はあるはずなのに、どこか薄い。

新学期特有の浮ついたざわめきが、古い石壁に吸い込まれていく。


音だけがある。

だが、それは現実に触れていない。


「タクミ」


背後からの声。


振り返らなくても分かる。

温度を欠いているのに、執着だけが過剰に残っている響き。


拓海は、足を止めた。

でも、振り返らない。


「本日の放課後のスケジュールを更新した」


淡々と続く。


「……お前の移動ログと、夕食の摂取カロリーを私の管理下(予約)で最適化する。……向かおう」


「……エド」


遮る。


低く、しかし確実に硬い声。


「……」


言葉が、途中で切れる。

まるで“通信が遮断された”かのように。


拓海は、ゆっくりと振り返った。


怒ってはいない。

声も荒げていない。


ただ――逃がさない目で、そこにいた。


「……それ、やめろ」


一拍。


「……全部だ」


空気が変わる。


目に見えないはずの境界が、その場に引かれる。


「……何を指している。具体的な項目の提示を――」


「全部だって言ってんだよ」


重ねる。


「待ち伏せも、勝手に予定組むのも」


一歩、距離を取る。


「……俺の“外”まで、全部お前の色で塗るのも」


その一歩。


わずか数十センチの空間が、決定的な意味を持つ。


「……俺の“外”まで、管理するな」


静かだった。


しかし、そこには一切の余地がなかった。


「……」


エドワードが、何も言わない。


それが、この場で最も異常だった。


「……タクミ」


わずかに遅れて、声が届く。


「それは合理的ではない」


「知るかよ」


即答。


「お前の“合理”の中に、俺を入れるな」


沈黙。


エドワードの視線が、ほんのわずかに揺れる。


(……同じだ)


記憶が重なる。


石造りの別荘。

閉ざされた扉。

そして、自分を拒絶した存在。


詩織。


一歩、踏み出しかける。


止まる。


踏み込めない。


その線を越えた瞬間、

拓海という存在が“失われる”という予感。


理屈ではない。

もっと原始的な、回避不能の恐怖。


「……エドワード」


拓海が、もう一度呼ぶ。


「俺は、ここにいる」


ゆっくりと。


「でもな」


視線を逸らさない。


「お前の中には、入らない」


はっきりと。


「そこは、……俺の場所じゃねぇ」


完全な線引き。


エドワードの呼吸が、わずかに乱れる。


「……拒否、か」


小さく。


「そうだよ。拒否だ」


短い肯定。


逃げない言葉。


数秒。


だが、異様に長い。


「……理解した」


ゆっくりと、言葉が落ちる。


「……論理的合意ではないが」


「お前の“出力(意思)”として受信した」


一拍。


「……物理的干渉を一時的に凍結する」


「一時じゃねぇ」


間髪入れず。


「ずっとだ」


止まる。


完全に。


初めて、エドワードの中で“計算が途切れた”。


言葉が出ない。

視線だけが、執拗に残る。


だが。

踏み込めない。


やがて。

ほんのわずかに、距離を取る。


「……再演算が必要だ」


低く。


「……お前という変数が、想定を逸脱している」


「知らねぇよ」


拓海は、もう振り返らない。

歩き出す。


「……」


止めない。

止められない。

ただ。


「……タクミ」


呼ぶ。


その声はもう、捕獲のためではない。


ただ、離れていくものを確認するだけの音だった。


■ジョージ記録(微調整)


ジョージの記録(廊下の突き当たり、消火器の影にて):


【サエキ事変・境界線ファーストブレイク編】


本日、初観測。


サエキ拓海、ハミルトンに対し明確な『拒絶』を実行。


結果:


・ハミルトン → 停止

・接触 → 中断

・強制干渉 → 無効化


「……うわ」


ジョージが、小さく漏らす。


「止まった」


信じられないものを見るように。


「……効いた、のか?」


一拍。


「……違うな」


小さく笑う。


「効いたんじゃない」


視線を細める。


「……怖かったんだ」


■ラスト(そのままで強い)


「……タクミ。更新する。……お前の『拒否』を前提とした、新しい予約(執着)を」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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