第百二十六話 「観測者とは、物語の外にいる存在ではなく、誰よりも正確に“逃げ場がないこと”を理解している当事者である」という話
ジョージ何物だ
夜。ジョージの実家。
暖炉の火が、ぱちぱちと穏やかな音を立てている。
テーブルには手作りの七面鳥。湯気を立てる家庭料理。
笑い声。グラスの触れ合う軽やかな音。
すべてが、あまりにも「普通」で、
あまりにも「幸福」な祝祭だった。
「ジョージ、あんたさっきから何してるの?
せっかくのクリスマスなのに、ずっとパソコンばっかり見て」
「んー? 観測。……というか、バグチェックかな」
「はあ?」
「いや、気にしないで。家庭の平和は僕が守ってるから」
画面を、少しだけ傾ける。
そこには、二つのウィンドウ。
一つ。
ロンドン、外交レジデンス。
暖炉のある静かな部屋。
窓を見上げる、一人の少年。
もう一つ。
ハミルトン邸。
巨大な空間。
同じように空を見上げる、一人の男。
「……同時刻」
チキンを一口運ぶ。
「同一対象。……位置ズレ、なし」
キーボードを叩く。
「……同期率、98%」
一拍。
「……やっぱり」
背もたれに身体を預ける。
「壁って意味ないんだ、この二人には」
「ねぇジョージ、聞いてるの?
お父さんが旅行の話してるでしょ?」
「聞いてる聞いてる。ベルギーね。チョコおいしいよね」
「ほんとに聞いてる?」
「メリークリスマス」
「適当すぎるでしょ!」
笑い声が広がる。
その中で。
ジョージだけが、別のものを見ている。
「……あーあ」
誰にも届かない声。
「終わってる」
画面に触れる。
「距離、無効」
「分断、無意味」
「拒絶……」
一拍。
「……効果なし」
カチ、とキーを押す。
【サエキ拓海:完全捕捉】
その瞬間。
両方の画面で。
視線が、同時に“上”へ動く。
空。
同じ月。
「……ほら」
小さく笑う。
「繋がってる」
暖炉の火が揺れる。
外では、まだ笑い声が続いている。
だが。
この画面の中にだけは、祝祭が存在しない。
「これ、恋愛じゃないよね」
少し考える。
「……バグ?」
首を振る。
「違うな」
納得したように、呟く。
「仕様だ」
一拍。
「この物語に、“自由”は実装されてない」
再び、画面を見る。
守られた場所の少年。
支配する場所の男。
それでも。
「同じ座標」
静かに、確定する。
■ジョージ最終ログ(余韻強化)
【サエキ事変・聖夜総括】
対象:
・佐伯拓海
・エドワード・ハミルトン
結果:
距離 → 無意味
拒絶 → 無効
環境 → 影響なし
結論:
両者は既に、
“同一座標に存在する”
(追記)
サエキ。
君は今、
どこにもいない。
そして。
どこにも、逃げられない。
「……メリークリスマス。……観測、完了」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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