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第百二十二話 「休暇とは、日常からの解放であるはずだが、同時に、それぞれの“本来の場所”へと引き戻す強制イベントでもある」という話

今回のクリスマスはお姉ちゃんのおうちですね

終業のベルが鳴る。

聞き慣れた、単調な電子音。だが、今日だけはその響きに、学園という名の巨大な機構が一時停止するような、鈍い軋みが混じっていた。


教室。


「――以上だ。今学期を終了とする。各自、事故のないよう速やかに帰省しろ」


アイアンサイドの声が、冬の乾いた空気を短く断ち切る。

一瞬の静寂。直後、堰を切ったようにざわめきが広がった。


椅子が引かれる音。鞄のジッパー。弾けるような笑い声。

それらすべてが、ここが“終点”ではなく“通過点”であることを、無責任に証明している。


「……やっと、終わったか」


拓海は机に突っ伏したまま、濁った声で呟いた。


「お疲れさま、サエキ」


後ろからジョージが覗き込む。


「で、どうするの? 日本? それとも、ハミルトンに航空ルートごと封鎖されて断念?」


「……後者に近いな」


顔を上げる。


「姉貴のとこだ。……ロンドンのレジデンス」


「レジデンス」


ジョージが軽く口笛を吹く。


「外交官仕様のやつか。……あそこ、普通の家じゃないよね。“国の一部”みたいなやつ」


「……まぁな」


「安全だけど、別の意味で逃げ場なさそうだね」


「……言うな」


苦い顔をする。


「タクミ」


「……うわ」


気が付くと真横に立っている

気配ではなく、もはや“現象”として存在している。


「予定(座標)は確定したか」


「……ああ。姉貴のとこだ。文句あるかよ」


「ない」


エドワードは、わずかに間を置いて頷いた。


「合理的だ。……国家という枠組みの内部。個人ではなく、制度の庇護下に入る選択」


「言い方」


「私は戻る」


「……だろうな」


「ハミルトン邸へ」


一拍。


「本拠地(中枢)だ。……お前のいない時間を、演算に充てる」


「聞いてねぇよ」


「必要ない」


短い沈黙。


「……ジョージは?」


「僕? 一応帰るよ。実家」


肩をすくめる。


「普通の家庭ってやつを維持しないとね。……観測機も、たまには電源落とさないと壊れる」


「お前が一番壊れてるだろ」


「ひどいなぁ」


笑いが、一瞬だけ生まれる。


すぐに、消える。


教室の空気がほどけていく。

繋がっていた糸が、一本ずつ、自然に切れていくように。


「タクミ」


「……なんだよ」


「距離は問題ではない」


「またそれか」


「お前がどこへ移動しようと」


一拍。


「座標は変わらない」


「変わるっつってんだろ」


「変わらない」


静かに、断定する。


「休暇明け」


背を向けながら。


「お前の最初の一歩の、着地点で待っている」


「……」


「……さっさと帰れ、バカ」


返事はない。


ただ、そこにいた気配だけが、すっと消えた。


廊下。


人の流れが、一斉に外へと向かう。


冷たい空気。

少し軽くなった世界。


だが。


「……めんどくせぇな、ほんと」


吐いた息は白く濁り、すぐに消えた。


残ったのは、胸の奥に沈む、重たい何かだけだった。


ジョージの記録(校門を見下ろす時計塔の影にて):


【サエキ事変・休暇分散(拡散)編】


三名、それぞれの『本来位置』へ移動。


現状:


サエキ拓海 → ロンドン・外交レジデンスへ。

個人ではなく、“国家”の庇護下に一時退避。


ハミルトン → 本拠地ハミルトン邸。

次期フェーズのための演算期間に突入。


ジョージ → 実家へ帰還。観測一時停止。


(追記)

一見、解散。

実際は、勢力の再配置。


各々が“自分の領域”に戻ることで、干渉範囲は拡大。

再接続時、衝突規模の増大は不可避。


……サエキ。

君が国家の庇護下に入ったところで、安心はできない。

ハミルトンは“国境”という概念ごと、予約してくるからね(笑)。


「タクミ。……お前がどこにいようと。……その場所は、いずれ、私の観測範囲になる」


「……世界地図ごと、書き換えるな……バカ……!!」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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