第百十八話 「文化とは、正しく理解されるために存在するのではなく、誤解されたときに最大の破壊力を発揮する」という話
巫女姿の菜摘ちゃんはさぞ可愛かろう
クレストフィールド学院
昼休み。寮のラウンジ。
いつも以上に騒がしい。
その中心にいるのは、エアメールを手にした拓海だった。
「サエキ、届いてるよー。日本からの重要パケット」
ジョージが小箱をひらひら振る。
「……あ、例の”電話でフッた相手”から?」
「やめろその言い方」
拓海は顔をしかめて箱を受け取る。
軽い。
だが、差出人――菜摘の名前が、やけに重い。
「……なんで届くんだよ。昨日電話したばっかだぞ」
ため息をつきながら開封する。
中には小さな包みと、封筒。
「……写真か?」
ジョージが覗き込む。
拓海が取り出す。
「――っ」
思考が止まる。
白と赤。
整った装束。
少しはにかむ表情。
巫女姿の菜摘。
「……あ」
ジョージが一拍置いて叫んだ。
「シャーマンだ!!!」
ラウンジ、爆発。
「何!? 見せろ!!」
「東洋の呪術師だ!!」
「精霊媒介者!!」
「婚約者だろ!? 聖域の守護者!!」
「違ぇよ!! 幼馴染だ!!」
「この装束見ろ!!」
「儀式用だ!!」
「神と直結してるタイプ!!」
「ただの巫女だ!! 実家の手伝い!!」
「神職か!」
「上位存在と通信可能個体!!」
「雑に強くすんな!!」
写真が回される。
広がる。
「……待て」
誰かが呟く。
「サエキは、日本に“これ”を残してきたのか……?」
「違ぇって言ってんだろ!!」
「婚約者 VS ハミルトン……」
「対決構図じゃん」
「東洋の巫女 VS 西洋の支配者」
「やめろ!!」
その時。
「タクミ」
背後。
温度が落ちる。
「……うわ」
振り返る。
いる。
「……それが」
エドワードの視線が写真に落ちる。
「お前の“帰属先”か」
「違ぇよ」
「……興味深い」
一歩。
距離が詰まる。
「神職」
「だから違うって」
「つまり、お前は既に」
一拍。
「別系統の上位存在と契約済みか」
「してねぇよ!!」
「競合だな」
「やめろ」
「排除対象、あるいは買収対象として認識した」
「やめろって言ってんだろ!!」
周囲、ざわつき再燃。
「宗教戦争だ」
「世界規模だぞこれ」
「ハミルトン vs 八百万の神!!」
「違ぇよ!!」
エドワードが写真を見つめる。
静かに。
じっと。
「……タクミ」
「なんだよ」
「この個体」
一拍。
「お前を引き戻す力を持っている」
「……」
「だが」
もう一歩。
「問題ない」
「何がだよ」
「神であろうと」
一拍。
「買収は可能だ」
「やめろ!! 神様に金積むな!!」
ラウンジ爆笑。
「金で神に勝つ気だぞ!!」
「英国やばすぎ!!」
「やばいのはお前らだ!!」
写真を奪い返す。
ぐしゃっと握る。
(……何やってんだよ)
ポケットにしまう。
(……こんなの、送ってきやがって)
昨夜の「ごめん」が、まだ残っている。
「タクミ」
「なんだよ」
「安心しろ」
「嫌な予感しかしねぇ」
「その“シャーマン”が何であれ」
一拍。
「お前の座標は変わらない」
「変わるわ」
「変わらない」
「変わる」
短い応酬。
ラウンジはまだ騒がしい。
だが。
ポケットの中の一枚だけが、妙に静かだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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