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第百十七話 「約束とは、守るためにあるのではなく、破ったときにその重さを知るためにある」という話

菜摘ちゃんのおうちは神社なのでお手伝いですね!

夜。寮の自室。

机の上に置かれたスマートフォンが、月光を浴びて、石碑のように沈んでいた。


拓海はそれをしばらく見つめたまま、ようやく手に取る。


画面を開く。―菜摘。


指が止まる。


(……最悪だ。俺、何やってんだ)


小さく吐いた息が、白く滲んだ。


逃げる理由は、もう残っていない。


コール。数秒。


「――もしもし!? たっくん!?」


弾けるような声。

距離が一瞬で消える。


「……久しぶり」


「久しぶりじゃないよ! メールも返してくれないし、生きてるか心配したんだから!」


「悪い」


「ほんとだよー! ……で、帰ってくるんでしょ? チケット取れた?」


間。


鼓動だけが、やけに大きい。


「……悪い」


一言。


それだけで、空気が変わる。


「え」


温度が落ちる。


「……帰らないの?」


「……ああ。今回はやめとく。姉貴のとこ行くんだ。

 ちょっと手伝わなきゃいけねぇことがあってな」


嘘だ。


理由なんて、どうでもいい。

ただ、戻れなかっただけだ。


沈黙。


短いはずの時間が、妙に長い。


「……また?」


小さく。


「また、そっちなんだ」


「……」


言葉が出ない。


「去年もさ」


続く。


「帰ってこなかったじゃん。今年は来るって思ってた」


笑っている。

でも、少し歪んでいる。


「……ごめん」


それしか出ない。


「……うん。まぁ、いいけどさ」


明るく戻す。


無理に。


「巫女、見せたかったんだけどなー」


「……似合うだろうな」


「でしょ? 絶対可愛いよ?」


「知ってる」


「……じゃあ来なよ」


「……行けねぇよ」


沈黙。


「……そっか」


短く。


それだけ。


「……じゃあまた今度ね」


「ああ」


「次は、ちゃんと帰ってきてよ?」


「……ああ」


通話が切れる。


電子音だけが残る。


スマホを机に置く。

音が、やけに響く。


(……最悪だな)


頭を掻く。


(……分かってただろ)


戻らないことも。


あいつが待ってることも。


「タクミ」


「……うわ」


振り返る。


いる。


「……いつからだよ」


「最初からだ」


「盗み聞きって言うんだよ、それ」


「観測だ」


「……最低だな」


吐き捨てる。


「分かってたのに。……期待してたの分かってたのに」


沈黙。


「合理的だ」


「やめろ」


即答。


「お前の選択は最適解だ」


「やめろって言ってんだろ」


「帰ることは可能だった」


「……」


「だが、お前は選ばなかった」


一拍。


「理由は明確だ」


「やめろ」


「お前は」


静かに。


「戻る場所よりも、ここに残ることを選んだ」


「違う!」


即答。


「逃げただけだ」


小さく。


「どちらでも同じだ」


「結果は変わらない」


「変わる」


「変わらない」


エドワードが一歩、距離を詰める。


「タクミ」


「なんだよ」


「安心しろ」


「何がだよ」


「お前が捨てたものは」


一拍。


「すべて、私が拾っている」


沈黙。


「……最悪だな」


「肯定する」


静かな部屋。


夜。


机の上のスマホは、もう鳴らない。


それでも。


さっき切ったはずのものが、まだどこかに残っている気がした。


「タクミ」


「……なんだよ」


「お前の“ごめん”は」


一拍。


「私への“よろしく”と同義だ」


「……訳し方を、一兆回間違えてるぞ、バカ……!!」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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