幕間(オマケ) 「観測者とは、記録を残す者であると同時に、記録されない存在である」という話
悠馬→拓海の息子
ノア→エドワードの息子
ジョージくん、悠馬たちの時代にはMI6とかで働いてそうw
ハミルトン邸。書斎。
重厚な机の上に、一冊のノートが開かれていた。
革装丁。
紙質は良い。
だが中身は―
「……兄さん、これ」
ノアがページを指で叩く。
「見つけちゃいけないやつじゃない?」
「……そうかもしれませんね」
悠馬は静かに答えた。
視線は既に文字を追っている。
「……量子常在」
ノアが読み上げる。
「“どこにでもいるハミルトン”……って、なにこれ。ホラー?」
「観察記録ですね」
悠馬は淡々と言う。
「……かなり精度の高い」
ページをめくる。
記述は簡潔。
だが、妙に生々しい。
「いや、これさ」
ノアが顔を上げる。
「父上がヤバいのは、まぁ知ってるけどさ」
「……ええ」
「これ書いてるやつも、だいぶヤバくない?」
「同意します」
間を置かず頷く。
「……というか」
ノアが腕を組む。
「ジョージって誰?」
静寂。
紙の音だけが、小さく響く。
「……それは」
悠馬が視線を落としたまま言う。
「僕も気になっていました」
「だよね?」
ノアが身を乗り出す。
「だってさ、これ」
ページを指で叩く。
「観察の精度おかしくない? 位置も時間も、全部ピッタリじゃん」
「……ええ」
「普通さ、ここまで分かる?」
「難しいでしょうね」
悠馬はページをめくる。
目は冷静だが、わずかにだけ、動きが止まる。
「……同時存在の記述までありますね」
「なにそれ怖い」
「実際に確認されているとすれば、なおさらです」
「やめて」
沈黙。
「……そういえば」
ノアがふと思い出したように言う。
「前の記録の時さ」
「……はい」
「拓海父さんって、なんか……思ってたよりヤバい家柄っぽくなかった?」
「……ええ」
悠馬の手が、わずかに止まる。
「父さん、全然話さないですからね」
静かに。
「実家のことも、過去のことも」
「だよねー」
ノアが軽く笑う。
「なのにさ、このジョージって人」
ノートを持ち上げる。
「完全に同じ場所にいるよね?」
「……ええ」
悠馬は短く答える。
「同学年……でしょうか」
「っぽいよね」
ノアが頷く。
「ってことはさ」
一拍。
「ずっと一緒にいたってことじゃん」
静かに、空気が変わる。
「……それだけの距離にいた人物が」
悠馬が呟く。
「一切、記憶に残っていない」
「それな」
ノアが笑う。
だが、その笑いは少しだけ薄い。
「普通さ、そんな観察してくる奴いたら」
「気づきますね」
「だよね?」
ノートのページが、静かに閉じられる。
「……兄さん」
「はい」
「このジョージってさ」
少しだけ声を落とす。
「人?」
一瞬。
沈黙。
「……さあ」
悠馬は答える。
「少なくとも」
一拍。
「観測者であることは、確かでしょう」
ノアが小さく笑う。
「なにそれ。結論になってない」
「そうですね」
だが。
二人の視線は、再びノートへ戻る。
そこに書かれているのは、
“記録”ではなく、
“観測”だった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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