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第百十五話 「燃やすことで消えるものは、最初から本質ではない」という話

イベント回

夜。校庭の端。

冷えた空気を鋭く裂くように、無数の火の粉が夜空へ舞い上がっていた。


高く積み上げられた木材の山。

そこに火が放たれ、巨大な焚き火となって、周囲の闇を暴力的なオレンジ色に染め上げている。


「……なんだこれ。キャンプファイヤーの豪華版か?」


拓海はコートのポケットに手を突っ込み、揺らめく光を見上げた。


「文化祭の延長にしては、火力がシャレになってねぇな」


「いや、もっと雑で伝統的なやつだよ」


横で紙コップを揺らしながら、ジョージが笑う。


「ガイ・フォークス・ナイト。昔、議事堂を爆破しようとした陰謀犯の人形を燃やす日」


「……雑だな英国」


「歴史はだいたい雑だよ」


パチ、と乾いた音。

その直後、花火が夜空に開く。


数秒遅れて落ちてくる轟音が、胸の奥を震わせた。


「……まぁ、派手で悪くねぇけどな」


拓海は息を吐く。


「こういうの、嫌いじゃねぇ」


「珍しいね。サエキが素直だ」


「うるせぇ」


「タクミ」


「……うわ」


振り向かなくても分かる。

熱の中に混じる、異質な冷たさ。


「なんだよ。お前も見に来たのか」


「観測範囲内だ」


エドワードは焚き火を見ていた。

周囲の喧騒とは切り離されたまま。


「火、という現象は有用だ。何が消え、何が残るかが明確になる」


「イベントだっつってんだろ」


炎が大きく揺れる。


中央の人形が崩れ、形を失っていく。


黒く、灰へと変わる。


「タクミ。燃やすことで処理できるものは単純だ」


「また始まったな」


「形がある。境界がある。だから消える」


一拍。


火の粉が風に流れる。


「だが、本質は燃えない」


「……は?」


エドワードの視線は、火の向こうへ。


「距離。環境。時間」


淡々と並べる。


「そして、お前という存在を定義する全て」


「……」


「燃やしても消えない」


「イベントに乗っかるな」


「違う。観測結果だ」


花火が光る。


一瞬、すべてが白くなる。


「お前がどこにいても」


声だけが残る。


「消えるのは表層だけだ」


「……やめろ」


「本質は残る」


「やめろって言ってんだろ」


「……お前を、燃やしたくない」


一拍。


「だから、囲う。冷めないように」


「……」


拓海はゆっくり顔を上げる。


「……プロポーズ?が火葬場レベルで怖いんだよ!!」


「――そこまでだ、ハミルトン」


低い声が割り込んだ。


振り返ると、

アイアンサイド先生が立っていた。


腕を組み、火を背負って。


「公共の場での過度な拘束発言は禁止だ」


「これは合理的な――」


「黙れ」


即断。


「他者の自由を侵害した時点で、それはただの暴走だ」


一歩、近づく。


「サエキは物ではない。管理対象でもない」


「……しかし、保存効率の観点では―」


「黙れと言った」


完全遮断。


ジョージが横で肩を震わせる。


「出たよ。“論理の拳”」


「茶化すな」


「いやでもさ、今の“燃やさないために囲う”って、新ジャンルだよ?」


「分類するな」


エドワードは一瞬だけ沈黙した。


火を見る。

灰を見る。


そして。


「……理解した」


「お?」


「公共空間では出力を制限する」


「そこかよ」


「だが、本質は変わらない」


「変われ」


即答。


「……ハミルトン」


先生が低く言う。


「走れ。グラウンド20周」


「……は?」


「30周に増やすぞ」


「……従います」


即答。


そして全力で走り出す。


「速ぇなあいつ」


「無駄に性能いいからね」


静けさが戻る。


火の音だけが残る。


「……サエキ」


先生が少しだけ声を落とす。


「大丈夫か」


「まぁ、いつも通りです」


「そうか」


短く頷く。


「無理はするな」


「はい」


先生は去る。

火の向こうへ。


ジョージが肩をすくめる。


「いやー、珍しく止めたね」


「もっと早く止めてくれ…」


「面白かったし」


「お前も止めろ」


「やだね(笑)」


遠くで足音。


一定のリズム。


拓海は焚き火を見る。

もう人形はない。

灰だけが残っている。


(……燃えたな)


けれど。

消えてないものがある。


「……めんどくせぇな」


小さく呟く。


「タクミ!」


遠くから声。


「……あ?」


「安心しろ!」


「嫌な予感しかしねぇ!」


「距離があっても―」


「走ってろ!!」


ジョージが吹き出す。


「通常営業だね」


「戻すな」


火はやがて弱まる。

しかし、消えないものだけが、残っていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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