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第百十三話 「仮装とは、本来一時的に別の役割を演じる遊戯であるが、場合によっては本来の姿を隠すためではなく、露呈させるための儀式へと変質する」という話

エドワードは吸血鬼よりプリンセスの恰好をしてほしいです

放課後。寮のラウンジ。

ハロウィン当日。


普段は厳格な静寂を守る空間が、今日ばかりは奇妙な喧騒に包まれていた。

吸血鬼、幽霊、魔女。色とりどりの“非日常”が、廊下を当たり前のように歩いている。


「……すげぇな。英国の本気かよ」


拓海は紙コップのオレンジジュースを片手に、周囲を見回した。


「ここまでやるのかよ、ここの連中は」


「伝統だからね」


包帯男の格好をしたジョージがひょいと現れる。中身の軽さは隠しきれていない。


「年に一度、“何やっても許される日”って解釈でだいたい合ってる」


「絶対違うだろ。……ん?」


「タクミ」


「……うわ」


振り向かなくても分かる。空気が冷える。


「なんだよ、お前も浮かれてんのか」


「仮装か」


一歩、後ろ。


「見れば分かるだろ。倉庫にあったマントだ。参加してますって顔しとけば十分だ」


拓海は簡素なマントをつまむ。


対して――。


「……お前はなんだよ、それ。気合入りすぎだろ」


エドワードは黒を基調とした衣装をまとっていた。

仮装ではない。完成された“役”そのもの。


「吸血鬼だ」


「そのまんますぎるだろ」


「合理的だ。この場で最も支配的な象徴を選択した」


一歩、距離が詰まる。


「お前の血液を監視し、確保するための最適なロールだ」


「設定が重いんだよ」


視線が落ちる。


「タクミ。今日は仮装の日だ」


「ああ」


「違う」


一拍。


「誤魔化しが許される日だ」


「……は?」


「だから隠す必要がない。本来の役割を」


「何をだよ」


「お前は逃げる対象ではない」


静かに断定する。


「管理対象だ」


「やめろ」


即答。


「イベント中くらい普通にしろ」


「私は常に通常運用だ」


「それが一番怖ぇんだよ」


ジョージが吹き出す。


「出た、“ハロウィンなのに通常営業”」


「黙れ」


「いやでもさ、今日くらい“友人”の仮装とかどう?」


「不要だ」


即答。


「既に最適な状態だ」


「どこがだよ」


「お前の隣にいる」


「やめろ」


「距離はゼロが理想だ。現在は0.5メートルで固定している」


「固定すんな」


周囲では笑い声と音楽。

すべてが“遊び”の空気。


なのに。


「タクミ。今日は特別だ」


一歩、さらに近づく。


「何がだよ」


「本音が許可されている」


沈黙。


空気が変わる。


「だから」


低く。


「逃げるな」


「逃げるわ」


即答。


踵を返す。


一歩。二歩。


――同じ歩幅で、ついてくる。


「……なんで今日の方が怖ぇんだよ」


「環境が整っているからだ」


「整えるな」


「合理的だ」


ジョージが後ろから手を振る。


「サエキー! ハミルトンの“トリック・オア・トリート”、どっちも監禁だからねー!(笑)」


「知ってるわ!!」


ラウンジの光は暖かい。

笑い声も絶えない。


それでも。


背後の気配だけは、仮装ではなかった。


剥がれない。

変わらない。

ただ、そこに在る。


最初から決められていたように。


逃げ場のない、脚本のように。


ジョージの記録(パンプキンの影にて):


【サエキ事変・ハロウィン実効支配編】


エドワード・ハミルトン、仮装を“執着の正当化”へ転用。


現状:


仮装:本性の露呈装置として再定義。

吸血鬼:サエキのバイタル監視役として機能。

拓海様:イベント中にも関わらず逃走継続中。


(追記)

“トリック・オア・トリート”=監禁か、さもなくば監禁。


「タクミ」


「なんだよ」


「安心しろ」


「嫌な予感しかしねぇ」


「お前がどんな格好をしても」


一拍。


「私の照準からは外れない」


「やめろ!! お面被ってろ!!」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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