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百十話 「友情とは、本来相互の信頼によって成立するが、解釈を誤ると人質の交換によって強制維持される契約へと変質する」という話

どなたか題材にしたいお話ないでしょうかね・・・・

放課後の寮、ラウンジ。

暖炉の火が、ぱちぱちと乾いた音を立てながら、秋の深まりを告げていた。


拓海はソファに寝転び、顔の上に文庫本を乗せて微睡まどろみの中にいた。

(……熱いな、これ。顔が焼けそうだわ)


「タクミ」


「うわっ」


本をずらすと、至近距離で覗き込むエドワードの顔。


「今度はなんだよ。静かに寝かせろ」


「その書籍。『走れメロス』だな」


「だからなんで知ってんだよ。英国の貴族様が、日本の児童文学まで網羅すんな」


「当然だ。既に言語解析スキャン済みだ。結論を述べる」


「聞きたくねぇ。絶対ロクな結論じゃない」


「友情とは、相互の不利益を回避するための担保だ」


「帰るわ」


拓海が起き上がろうとするが、エドワードの手が肩を押さえる。逃げ場なし。


「待て。まだ核心バグに至っていない」


「至るな。そのままフリーズしてろ」


エドワードは淡々と、しかし瞳に熱を宿したまま続ける。


「この物語において、メロスは石像のように動かない信頼ではなく、セリヌンティウスという物理的な人質を残すことで、約束の履行を担保している。つまり、信頼とは精神ではない。拘束だ」


「違ぇよ!! 二人の熱い友情の話だろ!!」


「否定する。友情という名の古典的リスクマネジメントだ」


「否定すんな!! 情緒を解せ!!」


エドワードはタブレットを操作する。


「応用する」


「するな。応用問題はテストだけにしてくれ」


「お前が日本へ帰る場合。身代わりが必要だ」


「いらねぇよ!! なんで俺が帰るのに誰かを生贄にしなきゃなんねぇんだ!!」


「必要だ。お前の帰還という不確定な未来を100%に固定するためだ。対象は既に選定済みだ」


そこへ、軽い声。


「……なんかさ、嫌な予感しかしないんだけど、僕の気のせい?」


ジョージが紅茶を片手に現れる。


「ジョージ」


「やっぱり僕!? 呼んでないのに名前が出た!!」


「お前を預かる」


「なんで!? 僕まだ紅茶飲んでる途中!!」


「最も近距離でサエキを観測している第三者であり、代替価値が高い。サエキが戻らなければ、お前の資産価値を接収する」


「代替って何!? 僕、交換パーツ!? 人生接収って、退学!?」


拓海が額を押さえる。


「やめろって言ってんだろ……友情を人質交渉に変えんな」


「合理的だ。期限は三日」


「設定すんな!! 児童文学のスケジュールを守るな!!」


「三日以内に戻らなければ、処刑(退学処分およびハミルトン家への永久奉公)とする」


「重い!! 『永久奉公』って何!? 僕一生ハミルトンの庭師(SP)!?」


ジョージが一歩下がる。紅茶が波打つ。


「違うのか」


「違うよ!? もっとこう、信じ合う心とか、走る汗とか、そういう……!!」


「信じている。お前がサエキを信じて待てばいい。そうだろ?」


「友情の話だろ!?」


「そうだ。なら問題ない。拘束によって友情の完成度を高めるだけだ」


「あるわ!!」


拓海が即座に切り返す。


「友情ってのはな、相手を信じて待つ話だろ!! 人質なんかいらねぇんだよ!!」


「否定する。信頼とは裏切りの可能性を内包する不完全な契約だ。だからこそ拘束で補強する」


「補強すんな!! 友情に鉄骨を入れるな!!」


「完成度を高めるためだ。ハミルトン製(完全)に」


ジョージがおずおずと手を挙げる。


「……ちょっといい? 発言権」


「許可する」


「ありがとう。それ、友情じゃなくて“監禁および脅迫契約書”だよね?」


「近い」


「認めるなよ!!」


拓海が立ち上がる。


「もういい、帰る。太宰の余韻を守らせろ」


「同行する。心中の確率を0.00%にする護衛だ」


「心中すんな!! メロスは走る話だ!!」


「ジョージ」


エドワードが振り返る。


「サエキが逃走した場合、お前を優先的に拘束する」


「僕が!? なんで!? 僕ただの観測者!!」


「合理的だ」


「やめて!? 僕の人生、サエキの走力にかかってるの!? サエキ、頼むから爆走して戻ってきて!!(笑)」


三人で廊下を歩き出す。

夕方の長い影が床に伸びる。


「タクミ。安心しろ」


「嫌な予感しかしない」


「お前が戻る限り、ジョージは無事だ」


「戻らなかったらどうなる」


一拍。夕日がエドワードの瞳を赤く染める。


「保証はない。お前の選択次第だ。それ以外は、すべて裏切りだ」


「やめろ!! 友達の人生を俺の選択肢の担保にすんな!!」


「ちょっと待って!? 今の“保証はない”って僕の人生サーバーダウン!? ねぇサエキ、ちゃんと戻ってきて!! セリヌンティウス(僕)の命がかかってるからね!!(笑)」


「知らねぇよ!! 勝手に走れよ!!」


叫びが廊下に響き渡る。


その後ろで、エドワードは静かに頷き、タブレットにログを刻んだ。


“観測記録:近代文学ハック編・走れメロス”

“担保設定により対象の帰還率が上昇。友情の強制維持に成功”


「上げ方が最悪なんだよォォォ!!」


夕焼けの中、三人の影が長く伸びる。

その関係は、もはや“友情”という生易しい言葉では説明できない。


―誰も、その契約に同意していないにもかかわらず。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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