幕間(オマケ) 「繰り返される記録は、血縁よりも“性質”を浮き彫りにする」という話
悠馬→拓海の息子
ノア→エドワードの息子
ハミルトン邸・書庫。
夜。
静まり返った空間に、ページをめくる音だけが控えめに響いていた。
「……兄さん」
ノアが、軽い調子で声をかける。
「また出てきたよ、これ」
机の上に置かれたノート。
見覚えしかない装丁。
「……例の記録ですか」
悠馬は顔を上げずに答える。
「うん。多分四冊目」
「四冊目ですか」
ノアが苦笑する。
「そんなに量産されるもんなのかな?」
「されている以上、されるのでしょう」
「怖ぇなぁ」
軽く言いながら、ノアは迷いなくページを開いた。
数秒。
「……あー……うん」
「どうされました?」
「いやこれさ」
一拍。
「父上、やっぱりダメだわ」
「今さらですね」
悠馬の返答は淡々としている。
ページをめくる。
【サエキ事変・スコットランド包囲編】
ノアが眉をひそめる。
「……“包囲”って書いてあるんだけど」
「軍事行動じゃないですか、これ」
「概ねその認識で問題ありません」
「問題しかないでしょ」
ノアは軽く笑いながらも、少しだけ視線を落とした。
「……俺、この人の息子なんだよな」
「事実です」
「やめてほしいな、その即答」
悠馬は少しだけカップに口をつける。
「血縁は選べませんので」
「重いって、それ」
さらにページをめくる。
【サエキ事変・再起動トリガー編】
ノアが一瞬止まる。
「……あー……これか」
「例のやつですね」
「例のやつって言い方やめて」
「慣れてる感じ出るから」
一拍。
「これさ」
「完全にアウトじゃない?」
「ええ、完全にアウトです」
「だよね」
ノアはため息をつく。
「でもさ」
少しだけ、言い淀む。
「……気持ちは、ちょっと分かるんだよな」
悠馬の手が止まる。
「……どういう意味でしょう」
ノアは肩をすくめる。
「いや、なんていうかさ」
「逃げられると困る、っていうか」
一拍。
「手放したくないっていうのは、分かるだろ」
沈黙。
悠馬は、少しだけ視線を上げた。
「……理解はできます」
短く。
「ですが」
一拍。
「方法が全て誤っています」
「だよな」
ノアが笑う。
「安心した」
「そこ肯定されたら、俺ちょっと危なかったわ」
「既に危ういですが」
「やめて」
さらにページをめくる。
【サエキ事変・インテリメンヘラ編】
ノアが吹き出す。
「これひどい」
「“自覚済み・改善なし”って何」
「最悪の組み合わせじゃん」
「効率的ではありますね」
「効率にすんな」
ノアは笑いながらも、少しだけ静かになる。
「……これさ」
「はい」
「被害者、ずっと拓海父さんだよね」
「その通りです」
「だよな」
一拍。
「……よく耐えたよなぁ」
悠馬は、少しだけ視線を落とす。
「……はい」
短い返事。
それ以上は続かない。
ノアも、それ以上は踏み込まなかった。
しばらくして。
「……俺さ」
ノアが軽く言う。
「父上みたいにはならないよ」
少しだけ笑いながら。
「さすがに、これは無理」
悠馬は、その言葉を静かに聞く。
「……そうですね」
一拍。
「ですが」
「はい?」
「既に似ている部分はありますよ」
「どこが!?」
「自覚がないところです」
「それ一番やばいやつじゃん」
ノアがノートを閉じる。
「……4回目なのにさ」
一拍。
「毎回ちゃんとダメージあるんだけど」
「正常です」
「慣れるべきではありません」
机の上に置かれたノート。
表紙の金文字が、静かに光る。
“観測記録”
その下に、小さく。
“継続中”
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
いいねや感想など、いつも励みになっています。
この話もゆるく続いていく予定なので、
また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。




