第百七話 「高度な知性は、執着の極北において「メンヘラ」という名のバグを肯定する」という話
エドワード:僕から逃げようなんて無駄さ! 逃げれば逃げるほど僕に近づく! だって、地球は丸いんだもん!!
→なんかそういうのがあったと思って調べたらほんとにあった
放課後の寮、ラウンジ。
暖炉の火が、静かに音を立てている。
人の気配はまばらで、空気だけがゆっくりと流れていた。
その中心で。
エドワードは、ラグビーのジャージを広げていた。
泥のついたままのそれを、
最新鋭のスキャナーに通し、
表示された数値を、じっと見つめている。
「……タクミ」
ぽつりと、呟く。
「先ほど、ジョージから」
一拍。
「『お前はメンヘラだ』という、……非学術的な評価を受けた」
ソファに沈んでいた拓海が、片目だけ開ける。
「……正解だな……満点やるわ」
エドワードは否定しなかった。
むしろ、わずかに思考するように間を置く。
「…分析した」
指先が、空中のデータをなぞる。
「…メンヘラ、過剰な依存と執着」
一拍。
「対象を中心に思考が固定される状態」
視線が、ゆっくりと拓海へ向く。
「定義は、正しい」
「いや、認めるなよ」
拓海が顔を覆う。
「そこは否定する流れだろ」
エドワードは、静かに首を振る。
「否定する理由がない」
一拍。
「お前という核を中心に、私の全演算は回転している」
「…それが事実だ」
暖炉の火が、小さく揺れる。
その光の中で、エドワードの横顔だけが妙に落ち着いて見えた。
「だが」
続く言葉は、さらに静かだった。
「それは低次の依存ではない。高精度の管理だ」
ジャージの泥に視線を落とす。
「お前の運動量、疲労、環境」
一拍。
「すべてを把握し、最適化する」
「……生存確率を、100%に固定するための手段だ」
「……それを世間ではメンヘラって言うんだよ!!」
拓海が半分起き上がる。
「言い換えただけだろ!!」
背後で、笑い声。
ジョージが壁に何かを投影する。
「見てこれ」
グラフが浮かび上がる。
振り切れた針。
「メンヘラ・メーター」
「……振り切れてるじゃねぇか」
「むしろ突き抜けてるよ」
ジョージは肩をすくめる。
「今朝さ」
「君のGPSが0.5秒切れただけで」
一拍。
「“消えた”って言ってたからね」
「……言ってたな」
「衛星動かそうとしてたな」
「やめろ!!」
拓海が頭を抱える。
「インフラに手を出すな!!」
エドワードは、淡々と続ける。
「リスク管理だ。お前が存在しない可能性は、……許容できない」
一拍。
「……よって、監視は必要だ」
「開き直るな!!」
ジョージがノートを開く。
ジョージの記録:
【サエキ事変・インテリメンヘラ編】
エドワード・ハミルトン、自身の異常性を完全に自覚。
ただし。
否定ではなく、肯定を選択。
現状:
・執着:自覚済み
・評価:問題なしと判断
・方向性:強化
(追記)
理性で制御された執着は、最も厄介である。
(継続)
「……タクミ」
「……なんだよ……」
「安心しろ」
一拍。
「どんなにお前が離れても」
さらに一拍。
「……私は、追いつく」
「いや、怖ぇよ!宣言すんな!」
暖炉の火が、ぱちりと弾ける。
その音だけが、妙に大きく響いた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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