表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/383

第百六話 「現実という名の冷気は、騒がしい熱狂のあとに静かに忍び寄る」という話

エドワード(;´Д`)

狂騒のような放課後が過ぎて、寮のラウンジから人の気配が消えた深夜。


窓の外には、色の抜けたような月が浮かんでいる。

光はあるのに、どこか冷たい。


拓海は一人、窓際のソファに沈んでいた。


手の中には、くしゃくしゃになった進路希望調査票。


エドワードに破かれ、

アイアンサイドに突き返され、

何度も書き直した紙。


だが。


志望校の欄は、まだ白いままだった。


(……日本、だよな)


視線を落とす。


(……帰るって、決めてた)


ポケットから、もう一枚の紙を取り出す。

少し折れた、手紙。


『大学は一緒がいいな』


たった一行。

だが、その重さだけが、やけに現実だった。


かつては当たり前だった未来。

それが、この一年で、ゆっくりと形を変えている。


理由は、分かっていた。


「……タクミ」


背後から、声。

振り返る前に、影が隣に落ちる。

エドワードが、静かに腰を下ろしていた。


いつものような圧も、

押し込むような言葉もない。


ただ、そこにいる。


「……月が、冷たいな」


「……ああ」


短い返事。

拓海は手紙を隠さなかった。


隠す意味がないと知っているし、

今のエドワードは、それを奪おうともしない。


「……お前の、『約束』は」


ゆっくりと、言葉が落ちる。


「……私というノイズがあっても、消えないのか」


月光に照らされた横顔は、白く、静かで。


どこか、脆く見えた。


「……ノイズじゃねぇよ」


拓海は視線を落としたまま言う。


「……ただの繋がりだ」


一拍。


「……お前には、分かんねぇだろうけどな」


短い沈黙。


「……分かっている」


エドワードは、すぐに答えなかった。

少し遅れて、静かに言う。


「……理解している、つもりだ」


その“つもり”に、わずかな歪みがあった。


「……だからこそ」


続く言葉は、低い。


「……切断したいと、思っている」


拓海は、何も言わなかった。

エドワードの手が、わずかに動く。


触れるか、触れないか。

その距離で止まる。


「……タクミ」


声は、いつもより小さい。


「……お前が、ここから消えることを」


一拍。


「私の全細胞が、拒絶している」


言葉が、途切れる。


「これは、計算じゃない」


さらに一拍。


「ただの、”バグ”だ」


拓海は、わずかに目を閉じた。


笑うでも、怒るでもなく。

ただ、受け止めるように。

エドワードの視線が、机の上の紙へ落ちる。


空白。


まだ、どこにも繋がっていない未来。


「……書け」


静かに言う。


「お前の、行きたい場所を」


一拍。


「そこに、私がいる」


それは命令ではなかった。

拒絶でもない。

ただの、宣言だった。


廊下の暗がり。


ジョージが、壁にもたれて立っている。


ジョージの記録:


【サエキ事変・最終決断前夜】


ハミルトン様、方針を微修正。


強制 → 追跡


観測:


・サエキ拓海:迷い、継続

・ハミルトン:意思、固定


(追記)


笑わなくなった。


(継続)


「……タクミ」


最後に、もう一度だけ。


「どこへ行ってもいい」


一拍。


「だが」


月の光が、わずかに揺れる。


「お前の行き着く場所には、私がいる」


「……最悪だな」


拓海は、小さく笑った。

自嘲のように。

それでも。


ペンを握り直す。


秋の夜は、深く、静かに、続いていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ