第百二話 「書き換えられた約束は、もはや契約書の一部でしかない」という話
拓海君、やばいのにロックオンされてるよねぇ・・・
翌朝。寮の食堂。
窓から差し込む朝の光は穏やかで、昨日の重い空気など存在しなかったかのように、
いつも通りの時間が流れている。
拓海はトーストを口に運びながら、ぼんやりと考えていた。
(……一緒の大学、か)
バターの味が、少しだけ遠い。
(……あいつ、まだ覚えてたんだな)
エモさ三割。
困惑七割。
そんな、静かな朝。
「……カチリ」
食器が触れる、小さな音。
それだけで、空気が変わる。
「……タクミ」
向かいの席。
エドワードが、紅茶を置いたまま、こちらを見ていた。
「今、お前の思考から」
一拍。
「日本に存在する特定個体との、過去の約束が検出された」
「ぶふっ……!」
思わずむせる。
「……飯の時くらい、やめろよ!」
「……安心しろ」
まったく安心できない前置き。
「昨夜、お前が保持していた“手紙”は」
一拍。
「既に処理済みだ」
「……は?」
「物理的に削除した」
「何してんだよ!!」
思いっきり立ち上がる。
「今お前のカバンの中にあるのは」
エドワードは淡々と続ける。
「”修正版”だ」
「修正すんな!!」
「“大学は一緒がいい”という文言は」
「やめろ」
「“ハミルトンと、同一空間で継続的に存在することが望ましい”に変更した」
「やめろって言ってんだろ!!」
「筆跡も再現してある」
「怖ぇよ!!」
「完全にアウトだろそれ!!」
少し離れた席で、
ジョージが、肩を震わせている。
「あはは……いや、もう無理」
「一晩でそこまでやる?」
ヘッドセットを外しながら、楽しそうに言う。
「ちなみにさ、その手紙の送り主」
一拍。
「もう“保護対象”になってるよ」
「……は?」
「家の周辺に“庭師”が増えたらしい」
「庭師って言うな!!」
「SPだろそれ!!」
「日本にまで行くな!!」
エドワードは、静かに紅茶を飲む。
「……問題ない」
一拍。
「接続先は、管理下に置いた」
「管理すんな!!」
「人だぞ!!」
ジョージがノートを開く。
ジョージの記録:
【サエキ事変・過去改変編】
ハミルトン様、サエキ拓海の“過去の約束”を物理的に再定義。
現状:
・手紙:差し替え済み
・筆跡:完全再現
・送り主:監視対象へ移行
(追記)
修正ではなく、侵略。
(継続)
「タクミ」
「……なんだよ」
「安心しろ」
一拍。
「お前の記憶も、いずれ整合性を取る」
「取らなくていいわ!!」
「……それまで」
さらに一拍。
「私が補助する」
「……どうやってだよ」
「耳元で説明する」
「やめろ」
「24時間」
「やめろって言ってんだろ!!」
朝の光は、相変わらず穏やかだった。
その中で
拓海だけが、現実から少しずれていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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