第九十六話 「鉄の規律は、暴走する独占欲を”校則違反”として一蹴する」という話
こりないエドワード
進路指導室。
重厚なオークの机。
その向こうで、ミスター・アイアンサイドが氷のような瞳で一枚の書類を見ていた。
「……ハミルトン。これは何だ」
「進路希望調査票だ」
エドワードは即答する。
「サエキの実父との合意、ならびにハミルトン財閥の事業計画に基づいた、最適な未来予測図だ」
「いや、俺の人生勝手に売られてるだけなんですけど!!」
横から拓海が叫ぶが、
アイアンサイドは片手を軽く上げて制した。
「……ハミルトン」
一拍。
「貴様は、この学園の『生徒』か」
さらに一拍。
「それとも、『人身売買のブローカー』か」
空気が止まる。
「生徒だ」
エドは答える。
「だが、ハミルトン家の一員として――」
「Silence.(黙れ)」
低く、短い一言。
それだけで、室温が一気に落ちた。
エドワードの肩が、ほんのわずかに揺れる。
「財力」
「地位」
「交渉力」
ゆっくりと言葉を重ねる。
「それらがどれほど優れていようと」
視線がまっすぐ刺さる。
「この学園において、生徒の進路を『契約』で縛ることは――」
一拍。
「許されない」
静かに断言された。
アイアンサイドは書類を手に取る。
「……美しくないな」
バリッ。
「……あ」
バリバリバリ。
エドワードの口が、わずかに開く。
数兆円規模の“未来予測図”が、ただの紙屑に変わっていく。
最後の一片が、ゴミ箱に落ちた。
「……サエキ」
視線が移る。
「貴様の進路は、貴様自身が決めるものだ」
一拍。
「他人の書いた脚本に従うな」
「……あ、はい」
拓海が、珍しく素直に頷いた。
「……そして、ハミルトン」
ゆっくりと、立ち上がる。
190cmを超える影が、エドワードを覆う。
「他人の人生を『事業計画』と呼ぶその傲慢」
一歩。
「規律違反だ」
間を置かず。
「放課後、グラウンド100周」
さらに。
「反省文20枚」
「……100周。非合理的だ」
「200周にするか」
「いいえ。今すぐ走ります」
即答だった。
エドワードは人生で初めて、
“金でも理屈でも動かないもの”に敗北した。
青い顔のまま、部屋を飛び出していく。
沈黙。
「……先生」
拓海がぼそっと言う。
「あいつ、戻ってきますよ」
「知っている」
即答だった。
「その時は、また叩く」
「頼もしい」
放課後。
グラウンド。
「……タクミ……」
息を切らしながら走るエド。
「……安心しろ……」
「……走りながら……新しい契約を……地面に刻む……」
「刻むな!!」
「地面使うな!!」
遠くから拓海が叫ぶ。
ジョージが、ベンチでのんびり記録している。
ジョージの記録:
【サエキ事変・鉄槌編】
ミスター・アイアンサイドによる強制介入を確認。
結果:
・契約書:物理削除(手動シュレッド)
・ハミルトン様:現在、乳酸と戦闘中
・サエキ:一時的に自由を回復
(追記)
「シャツのボタンを留めろ」との指導あり。
(継続)
(なお、再発確定)
「……タクミ……」
「……帰さない……」
「その執念どこで補給してんだよ!!」
秋の空は、高かった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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