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第九十五話 「将来という個人の選択は、ハミルトンにとって既に契約済みの事業計画である」という話

エドワード君もはや歯止めが利かなくなってる件

翌日の教室。

秋の光は低く、窓から差し込む角度も浅い。


昨日のラグビーの熱気が嘘みたいに引いていて、

拓海は眠そうにペンを回していた。


「……でさ、サエキ。進路希望、もう出した?」


前の席のやつが、ポテトチップスでもつまむみたいな軽さで聞いてくる。


「……まだ」


一拍。


「……まぁ、日本帰るしな」


昨日と同じ言葉。

だが今は、どこか“意地”みたいな響きが混じっていた。


「……帰るのか」


「約束、だもんな」


「ああ」


少しだけ間を置く。


「……親父も、……あいつも、……待ってるしな」


日本の道場。夕暮れの街。

一瞬だけ浮かんで、すぐに消える。


「……でもさ」


別のやつが軽く言う。


「昨日の試合見たら、普通にこっちでもいけるだろ」


「大学も、選び放題じゃね?」


「残ればいいのに」


軽い言葉。

でも、全部現実だった。


「……歴史なんて、……いらねぇよ」


拓海は鼻で笑う。


(……まぁ)


(悪くはないな)


ほんの一瞬だけ、そう思う。


その―


0.1秒後。


「……タクミ」


「その『悪くない』という思考を検知した」


「今すぐ、私への永久契約へと変換しろ」


「うわぁ!!」


椅子がガタつく。


「お前、幽霊かよ!! いつから後ろにいた!!」


振り向く。

そこには。


完璧に整えられた制服。

そして、明らかに“進路資料”ではない厚みの革バインダーを抱えたエドワード。


「安心しろ」


「お前の進路は、既に確定している」


「してねぇよ!!」


「英国残留」


即答。


「帰るわ」


間髪入れず返す。


だがエドは止まらない。


「ハミルトン財閥・次期戦略室顧問」


「および」


一拍。


「私専用の対人折衝・肉体言語担当」


「役職名がおかしいんだよ!!」


「給与は英国国家予算の0.5%を基準に」


「お前の機嫌で変動する」


「情緒で上下するな!!」


バインダーが机に叩きつけられる。


ドン。


「既に」


エドは淡々と言う。


「お前の父親とは合意済みだ」


「は?」


「高級カステラを提示した」


一拍。


「検討に入った」


「親父ィィ!!」


「カステラで折れるな!! 刑事だろ!!」


教室がざわつく。


「……マジで?」

「カステラ強ぇ……」


ジョージが、後ろで完全に笑っている。


「あはは! 見てよあのバインダー!」


スマホを構えながら言う。


「中身、願書じゃないよ。『一生分の献立表』と『退職禁止特約』」


「献立から管理すんな!!」


「あと“逃亡時の追跡プラン”もある」


「入れるな!!」


ジョージの記録:


【サエキ事変・進路確定(強制)編】


対象(サエキ拓海)、

“迷い”を検知された瞬間に、人生を事業化される。


現状:


・父親:カステラで揺らぐ

・進路:未記入

・契約:完成済み


(追記)


自由意志、

ハミルトン様により“参考意見”扱いへ降格。


(継続)


「……タクミ」


エドが静かに言う。


「お前はここで学び」


「ここで働き、ここで固定される」


「監禁じゃねぇか!!」


「合理的だ」


「合理的じゃねぇよ!!」


一拍。


「約束は更新可能だ」


その言葉だけ、少しだけ違った。

拓海は、ほんの一瞬だけ黙る。


「……契約じゃねぇよ」


低く言う。


「人だ」


短い沈黙。


エドはわずかに目を細め――


「……ならば」


「契約にする」


「するな!!」


完全に台無しだった。


教室の空気が一気に崩れる。


「また始まった……」

「進路どころじゃねぇ……」


拓海は、机の上のバインダーを睨む。


(……悪くはない)


そう思ってしまった自分に、軽く舌打ちする。


「帰るっつってんだろ」


小さく呟いたその言葉は、

誰にも拾われなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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