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第九十三話 「法的拘束力の復帰は、日常を”公務”へと変貌させる」という話

なんかもうバカしかいない件

ハーフターム明けの教室。

朝の空気は静かで、整っていた。


―ただし。


拓海の周囲、半径一メートルだけが、明確な空白として切り取られている。


誰も近づかない。

誰も触れない。


まるでそこだけが、見えない線で区切られた「非武装地帯デミリタライズド・ゾーン」のようだった。


(……まだ続いてんのかよ、これ)


拓海は小さく息を吐く。

机に頬杖をついたまま、どうでもよさそうに視線を落とした。


その時。

廊下から、足音が聞こえる。


規則的ではない。

重い。

そして、無駄に“存在感がある”。


(……嫌な予感しかしねぇ)


次の瞬間。


バッ、と扉が開いた。

教室の空気が、一斉に固まる。


そこに立っていたのは――


いつもの制服ではない。

異様に整ったシルエット。

無駄に格式の高いスリーピース。

そして、その腕に抱えられた、分厚い書類の束。


「……拓海」


低い声が落ちる。


「……再会まで、……144時間と23秒」


一拍。


「留置場の壁に、お前の名前を、素数で108回刻むことで、……精神の平衡を維持した」


「……合理的判断だ」


「怖ぇよ!!」


椅子を蹴るように立ち上がる。


「公共物に刻むな!!」


だが、エドワードは動じない。

ゆっくりと歩み寄り、

その分厚い書類を、拓海の机に置いた。


「安心しろ」


淡々と続ける。


「詩織殿による『法的排除』に対し、私は、ハミルトン財閥法務部を総動員し」


一拍。


「サエキ家との間に、暫定協定を締結した」


「……は?」


拓海の動きが止まる。


「協定?」


その横で。


「あはは……っ」


ジョージが、完全に崩れていた。


「見てよこれ……」


首から下げられたカードをひらひらさせる。


「“国家公認・接近許可証”」


「……は?」


「エドワードのパパがさ」


笑いを堪えながら続ける。


「君のパパ(警視庁)に、『お詫びにサイバー捜査システム一式寄贈します』って言ったら」


一拍。


「“……まあ、仲良くやる分にはいいだろう”って」


「……親父ッ?!!」


拓海が叫ぶ。


「物欲に負けんなよ!!」


「国家の威信どうしたよ!!」


その間にも。


エドワードは、静かに一歩踏み出す。

これまで誰も越えなかった距離。


“外交領域”とされていた、その一メートル。


あっさりと踏み込む。

周囲の空気が、わずかに揺れる。


「……これで」


エドが言う。


「お前への接触は」


一拍。


「学園公認、かつ両家公認の“公務”となった」


指先が、わずかに動く。


「今この瞬間私の指が、お前の袖に触れることは」


さらに一拍。


「日英友好の象徴だ」


「……勝手にすんな!!」


即座に振り払う。


「ただの休み時間だろ!!」


だが、周囲の反応は違った。


「……おお……」

「公認の接触……」

「これが……トップ同士の交渉……」


勝手に納得し、勝手に拝み始める。


(……もうダメだこの学校)


拓海は天井を見上げた。


ジョージの記録:


【サエキ事変・公認ストーキング編】


エドワード・ハミルトン、


国家権力による排除を、


“寄付”および“法的手続き”により無効化。


現状:


・接近行為:『共同研究』として合法化

・学園側:介入不能(形式上)

・サエキパパ:システム導入により一時沈黙


(追記)


学園内における両者の接触は、


“外交交渉”として扱われる傾向あり。


(継続)


(愛は、国家予算で合法化可能)


「……拓海」


エドが静かに言う。


「もう、“パパ”を呼んでも無駄だ」


一拍。


「お前の父の端末には、すでに」


「私の“見守りシステム”が導入されている」


「やめろ!!」


「親父ハッキングすんな!!」


教室の後方から、誰かが小さく呟く。


「……これ、もう国際問題だろ」


「最初からだよ」


誰かが即答した。


拓海は、静かに机に突っ伏した。


「ってか俺、普通に生きたいだけなんだけどな」


その願いだけが、


なぜかどこにも届かなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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