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第九十二話 「国家的保護対象の復帰は、日常の解像度を著しく低下させる」という話

拓海君は普通なのに周りに変な人しかいない説

ハーフターム明け。


クレストフィールド学院の朝は、いつもと変わらず静かだった。


石造りの廊下には、乾いた靴音が規則正しく響き、

整えられた制服の列が、乱れることなく流れていく。


すべてが、何事もなかったかのように整っている。


―少なくとも、表面上は。


「……はぁ」


その中を、拓海は気だるげに歩いていた。


数日前まで、国家権力を巻き込んだ騒動の中心にいたとは思えないほど、景色は平穏だ。

静かで、均一で、何の引っ掛かりもない。


(……静かだな)


そう思った瞬間、違和感が生じる。


静かなのに、落ち着かない。

むしろ、妙に整いすぎている。


「……おい」


すれ違いざま、小さな声が耳に入る。


「見ろよ……来たぞ」

「“例のやつ”だ……」

「二大国家権力に守られた……」


一拍。


「神だ」


「神じゃねぇよ!!」


反射的に振り返る。


だが、視線を向けた瞬間、周囲の生徒たちは一斉に顔を逸らした。


何もなかったかのように、歩き去っていく。


(……なんだこの距離感)


近づいてこない。

だが、遠ざかりもしない。


測ったように保たれた間隔だけが、不自然に残る。


教室に入る。

席に着く。

椅子の軋む音が、やけに大きく感じられた。


「……おかえり!」


隣から、声が落ちる。

ジョージだった。


「国家機密くん」


「やめろ」


「いやぁ、すごかったね」


軽い調子のまま、続ける。


「外交ルートと警察権力の同時発動。あれはさすがに初めて見たよ」


「見せんなよ」


「見えちゃったんだよ」


肩をすくめる。


「今、学内じゃ“触れると国際問題になる男”って扱いだから」


「普通に扱え」


「無理でしょ」


即答だった。

ジョージは顎で教室の空気を示す。


何人かの生徒が、こちらを見ている。

だが、誰も近づかない。


「“半径1メートル以内=外交領域”って認識されてるよ」


「やめろ」


その時。


「……サエキ」


後ろから、声がかかる。


「そのプリント、回してくれ」


ごく普通の声音だった。

拓海は一瞬だけ手を止め、振り返る。


「……ああ」


何事もないようにプリントを手渡す。

受け取った生徒の指が、ほんの一瞬だけ止まる。


「……あ」


小さな声。


「……今、接触した」


「すんなよそんな顔!!」


「いや……無意識で……」


周囲の空気が、わずかに揺れる。

小さなざわめきが、抑えきれずに漏れた。


(……めんどくせぇ)


拓海は机に突っ伏す。


「……静かでいいはずなのに」


ぼそりと呟く。


「……なんか、余計疲れるな」


隣で、ジョージが小さく笑った。


「だろうね」


一拍置いて、続ける。


「“神”から“国家案件”に進化した結果だよ」


「進化すんな」


ジョージはさらに声を落とす。


「あとさ」


「……ハミルトン、今日いないでしょ」


「いないな」


「連行されたからね」


「だろうな」


一瞬だけ、間が空く。


「でもさ」


ジョージがわずかに笑う。


「もうすぐ戻るよ」


嫌な予感が、先に立つ。


「……帰ってくんな」


「無理だね」


軽く、断言する。


「今、“合法的に接触する方法”を必死に組んでるから」


「やめろ」


「多分次は」


一拍。


「学校公認で来るよ」


「最悪だな」


窓の外に目をやる。


空は、いつも通りだった。

何も変わらない。


(……静かすぎる)


ほんのわずかに。

何かが欠けているような感覚が残る。


ジョージの記録:


【サエキ事変・国家保護後遺症編】


サエキ拓海、学園に復帰。


現状:


・物理的距離:過剰に確保

・精神的距離:不安定

・扱い:人間 → 国家保護対象


(追記)


ハミルトン様不在により、一時的な平穏を確認。


しかし。


対象の異常性は、既に環境へ定着。


(継続)


(次の騒動、発生確率:高)


「……普通に過ごさせろよ」


その言葉は、誰にも届かないまま、静かに消えた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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