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第九十話 「静寂の防衛線は、ハイテクな変態行為によってシュールに崩壊する」という話

これ合法なのか

詩織の別荘は、本来ならスコットランドの深い霧に守られた、静謐せいひつな聖域のはずだった。

朝の空気は澄み、庭は整えられ、窓の向こうには静かな丘陵が広がっている。


―ただし。


その平穏は、庭の境界線ギリギリに突如出現した

「不自然に黒い多機能型テント」によって、視覚的に完全に破壊されていた。


「……ねえ、拓ちゃん。あれ、何?」


詩織が紅茶を手に、窓の外を指差す。


その先。


NASAの月面基地を思わせる無機質な黒い構造体と、

空へ突き刺さるように伸びたパラボラアンテナ。


「……見ちゃダメだ、姉貴」


拓海は、視線を逸らしたまま言う。


「あれは『ハミルトン』っていう名前の、性質の悪い自然現象だ」


「自然現象にしては」


詩織がカップを傾ける。


「アンテナがこっちの窓を正確にエイムしてるんだけど?」


完全にアウト寄りだった。


その時。


ピンポーン、と場違いに軽い音が響く。


「やあ、お姉さん。近所に引っ越してきたジョージだよ」


インターホン越しの声。


「これ、地元のショートブレッド。……あ、拓海、勉強捗ってる?」


「……ジョージ」


拓海が顔をしかめる。


「お前、どの面下げて来てんだよ」


「いやぁ、僕はあくまで“良識ある友人”枠だからね」


さらりと答える。


「アイアンサイド先生の許可証もあるし(偽造じゃないよ、たぶん)」


「たぶんって言うな」


詩織は一瞬だけ考え、そしてため息をついた。


「……あなた“だけ”よ」


ドアが開く。

ジョージだけが、室内に入る。


外。

テントの中。


「……通過を確認」


エドワードが、淡々と呟く。


「……やはり、危険度評価の差異が存在する」


室内。


「で?」


拓海が腕を組む。


「あっちの“黒い要塞”にいる主は何してんだよ」


「ああ、ハミルトン?」


ジョージがスコーンをかじる。


「“非接触型・鼓動同期システム”の調整中」


「帰れ」


「君のペンの振動から集中力を解析してるらしいよ」


一拍。


「ほら、見て」


カーテンを少し開く。


外。


エドワードがテントから身を乗り出し、

タブレット片手に、もはや測量士のような精度で別荘を観測していた。


「……タクミ」


窓越しに声が届く。


「……そのページ、めくるのが3.5秒遅い」


「うるせぇ!!」


即答。


「集中力を乱してるのはお前だ!!」


「……なるほど」


エドは静かに頷く。


「……反抗期という名の、私への依存(予約)だな」


「違う!!」


「……ジョージ」


通信が繋がる。


「室内の二酸化炭素濃度を計測しろ」


「やめろ」


「外部から酸素供給を行う」


「爆発するわ!!」


そのやり取りを横目に、ジョージはスマホを構える。


「あはは、いいねこれ」


「“聖域に拒まれた巡礼者”って感じ」


「いい加減にしてくれよ…」


「やってることはただのハイテク不審者だけどね」


詩織が、こめかみを押さえる。


「……ねえ」


低い声。


「これ以上やるなら、本当に通報するわよ」


一瞬外の動きが、止まる。

エドワードの指が、わずかに止まった。


「法的リスクを確認する」


小さく呟く。


「だが」


再び動き出す。


「観測は継続可能だ」


「懲りないなぁ」


ジョージが笑う。


ジョージの記録:


【サエキ事変・スコットランド包囲作戦(コメディVer.)】


サエキ拓海、避難先においても観測圏内からの離脱に失敗。


現状:


・外部:ハミルトン様による“合法ギリギリの観測”継続

・内部:詩織様による“法的圧力”発動

・観測者:私、室内でスコーンを消費しながら実況中継


(追記)


両陣営、互いに一線は越えないまま、

極めて不健全な均衡状態を維持。


(継続)


(非常にくだらないが、極めて高度な攻防)


「拓海」


外から声。


「……安心しろ」


一拍。


「お前の解答は、”常に最適化”される」


「自分でやるわ!!」

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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