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第八十八話 「再会の既視感は、排除の速度を加速させる」という話

やはり追い返すしおりんお姉ちゃん

スコットランド。


小さな駅のホームに、冷たい風が吹き抜ける。

ロンドンとは違う、乾いた空気。

人の密度も、音も、すべてが穏やかだった。


列車の余韻だけが、まだわずかに残っている。


「……着いた……」


拓海は、小さく息を吐いた。


肩に乗っていた何かが、少しだけ軽くなる。

数日ぶりに、まともな世界に戻ってきた気がした。


「拓ちゃん!!」


聞き慣れた声に、反射的に振り向く。


詩織が手を振りながら、こちらへ駆け寄ってくる。

その表情は、いつものように柔らかい。


「お疲れ様! 大変だったでしょう?」


「んー、まあ?」


短く返すと、自然と肩の力が抜けた。

ここでは、何も構えなくていい。


「とりあえず車―」


詩織がそう言いかけて、

その動きが、不自然に止まった。

視線が、拓海の背後へと滑る。


一瞬。


ほんの一瞬だけ。

空気が、音を失う。


「……来たのね」


静かな声だった。


驚きではない。

確認でもない。


理解と、確信。


ゆっくりと、視線が固定される。


「……ハミルトン卿」


名前を呼ぶ声に、感情はほとんど乗っていない。

だが、その分だけ、輪郭がはっきりしていた。


「……なぜ、ここにいるの?」


問いは簡潔で、余白がない。


エドワードは、一歩前に出る。


「……同行している」


当然のように言う。


「許可していないわ」


即答だった。

間を置かない。迷いもない。


「……必要だ」


「不要よ」


重ねるように返される。


「拓ちゃんは“帰省”しているの」


一拍。


「“管理”されるために来たわけじゃない」


その言葉で、空気が切り替わる。

穏やかだったはずの場所に、静かな緊張が張りつく。


「……詩織殿」


エドが口を開く。


「……“逢ひ見ての後の心”―」


「使わないで」


遮断は、速かった。


「その話、前にも聞いたわ」


一歩、距離を詰める。


「そして、理解している」


視線が、まっすぐ突き刺さる。


「……あなたが危険だということも」


沈黙。

エドは、わずかに言葉を失う。


ほんの一瞬だけ。


「……誤認だ」


「いいえ」


迷いなく否定する。


「経験よ」


短い言葉だった。


だが、それ以上の説明を必要としない強さがあった。

議論は、そこで終わる。


「拓ちゃん、こっち」


詩織は自然な動きで、拓海の腕を取る。


「今日はもう休むわよ」


そのまま連れていこうとする。


「待て」


背後から、エドの声。


「……私は、、、」


「来ないで」


振り返らずに言う。


「あなたの“同行”は認めていない」


完全な拒絶だった。


そのやり取りのすぐ横で。


「あー、これだ」


ジョージが、小さく笑う。


「“二回目の対峙”」


スマートフォンを構えたまま、楽しそうに呟く。


「初手から最適解。さすがだね」


「やめろ」


拓海が言うが、止まらない。


「……さて」


ジョージは、淡々と記録を続ける。


******************


ジョージの記録:


【サエキ事変・再接触編】


詩織様、ハミルトン様との再接触において、


驚き・混乱のプロセスを完全に省略。


結果:


即時判断 → 即時排除。


(追記)


経験値の差により、

ハミルトン様、初動で主導権を喪失。


(…継続)


(極めて健全な展開)


*****************


「……拓海」


エドが、静かに言う。


「問題ない」


一拍。


「距離は、意味を持たない」


「持つわ」


即答。

詩織だった。


「ここでは、ちゃんと持つの」


その言葉だけが、

やけに現実の重さを持って、空気に残った。


少し離れた場所で。


「……あーあ」


ジョージが、小さく笑う。


「“外の世界”、ちゃんと機能してるね」


誰にも聞こえない声で、そう呟いた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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