第八十三話 「神々の黄昏は、購買部のガムの売り切れと共に訪れる」という話
またなんかキャラが勝手に暴走を・・・
中庭、さらに数分後。
「自由神」と化した拓海は、
ベンチに片足を乗せたまま、ガムを噛んでいた。
クチャ。
クチャ。
本人なりに「行儀悪く」を意識しているが、
どう見てもただの育ちの良い人間が無理しているだけである。
「……見たか、エド」
拓海は、ややドヤ顔で言った。
「今の俺は、規則もマナーも、お前の理想も――全部噛み砕いてんだよ」
一拍。
「どうだ、幻滅したろ?」
しかし。
エドワードの瞳には、幻滅の気配は一切なかった。
むしろ。
未知の知的生命体を観測した学者のような、
それでいて明らかに方向性を間違えた感情が混ざっている。
「……拓海」
低く、震える声。
「……お前が今、その顎を動かすたびに」
一歩、近づく。
「……私の胸腔に、得体の知れない振動が響く」
「合理的ではない」
さらに一歩。
「……だが」
止まる。
「……そのガムの糖分になりたいという衝動を、抑えきれない」
「お前ほんと一度病院行け!!」
限界だった。
その頃、周囲ではすでに別の意味で限界が訪れていた。
「いいや! ネクタイを外したあの鎖骨のラインこそ至高だ!
“鎖骨教(第一形態)”こそが正史だ!」
「甘いな! あの片足を乗せた野性味――
“踏み台教(第二形態)”こそ神の真髄だろ!」
「黙れ!! 今のガムだ!!
“咀嚼教(第三形態)”が全てを上書きしたんだよ!!」
完全に内戦である。
しかも原因は全部同一人物。
「やめろ」
誰も止まらない。
「やめろォ!!」
誰も聞かない。
その瞬間。
「……ジョージ」
冷気。
エドワードが、静かに命じる。
「……今すぐ購買部のガムを全在庫買い占めろ」
「そして、この中庭を封鎖する」
一拍。
「……異教徒の視線が、”私の拓海”を汚している」
「言い方」
だがジョージは、すでに別の作業をしていた。
「あはは、無理だよハミルトン」
スマホを操作しながら答える。
「もう購買部、ガム完売」
「“聖人の咀嚼を再現したい”って信者が殺到してさ」
視線の先。
ラグビー部。
全員。
クチャクチャ。
「……地獄か?」
「地獄だね」
「不敬罪だ」
エドワード、即答。
「……全校生徒、停学にしろ」
「無理だって」
「あと見て」
ジョージ、画面を見せる。
「“サエキ・ガム・エディション”の非公式ブロマイド、予約200超えた」
「やめろ」
「もう遅い」
完全に遅い。
ジョージの記録:
【サエキ事変・宗教改革編】
サエキ拓海、不良への転身を試みた結果、
“咀嚼による福音”を全校に拡散。
被害状況:
購買部のガム、在庫ゼロ。
学園内にて
「鎖骨派」「踏み台派」「咀嚼派」
三宗教が成立。
現在、覇権争いが勃発中。
(追記)
ハミルトン様、
ガム製造会社の買収を検討。
目的:
拓海以外の咀嚼行為の禁止。
(……倫理、崩壊)
「拓海」
エドが、静かに言う。
「……そのガムを吐き出せ」
一歩。
「……そして、私に預けろ」
真剣な顔。
「……それは、世界で唯一の聖遺物だ」
「汚ねぇよ!!」
即答。
「自分でゴミ箱に捨てるわ!!」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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