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二つ目

「第七地区、現在の負荷は!」


グレンの声が詰所へ響いた。


表示板の赤い光が激しく明滅している。


第五地区の制御は、まだシャワルの手の中にあった。


住民は全員出た。


地下の作業員も退避した。


ほんの数秒前までは、あとはシャワルが手を離し、壊れた制御をそのまま終わらせればいいはずだった。


だが、状況が変わった。


「第七地区、復帰後も上昇中!」


隊員が答える。


「第五は!」


テオが表示へ飛びついた。


顔色が変わる。


「待って!」


「何だ!」


「第五にも、また入ってきてる!」


シャワルが目を細めた。


右手に掛かる重さが、急に増している。


さっきまで第五地区の古い制御に残っていたのは、行き場を失った魔力だけだった。


人は出た。


給水も切り離した。


そのまま壊れても、周囲の設備を失うだけで済むはずだった。


ところが、第七地区で起きた新しい供給低下と復帰が、第五地区へももう一度魔力を送り込んでいる。


完全に死にかけていた制御へ、新しい力が押し込まれている。


「第五を今離したら?」


グレンが尋ねる。


テオが表示を追う。


「さっきまでとは違います。この量で破断したら、北側の逃がし路まで逆流するかもしれない」


「そこは?」


「避難車両が通ってます!」


隊員が地図を指した。


第五地区から出した住民の一部が、まだ北側の大通りを通って学校へ向かっている。


危険区域そのものからは出ている。


だが、今の条件で制御が破断すれば、想定していた範囲より広く魔力が走る可能性がある。


シャワルは手を下ろさなかった。


「何秒で空く」


グレンがすぐ避難担当へ聞く。


「北側の車列ですか?」


「そうだ!」


「三分……雪があるので、四分ください!」


四分。


シャワルは何も言わない。


第五地区一つだけでも、すでにかなりの時間を持たせている。


右腕の感覚が鈍い。


それでもまだ、薄い風は崩れていない。


「第五の魔力を別へ逃がせないか」


グレンがテオへ向く。


「やります!」


「何分」


「二分!」


「一分半で組め!」


「やってみます!」


テオが部下を呼ぶ。


「西の逃がし路を開ける! 北へ行かせるな! 西だ!」


「西は交換途中です!」


「だから全部流すな! 三割だけ受けさせる!」


技師たちが動く。


誰もシャワルに解決を求めない。


第五地区を安全に終わらせるのは、彼らの仕事だった。


だが、赤い表示は一つではない。


第七地区。


そちらも上がり続けている。


グレンが伝声具を掴む。


「第七、応答!」


雑音。


それから声。


『こちら第七! 聞こえます!』


「住民避難は!」


『開始しました! 危険区域に四十三人!』


「制御は!」


『戻りません!』


別の声が割り込む。


『切り離しを試していますが、一箇所噛んでます!』


グレンの顔が険しくなる。


「あとどれくらい保つ!」


返事はない。


代わりに、大きな音が伝声具の向こうから響いた。


『……分かりません!』


グレンはそれ以上聞かなかった。


「避難を優先! 修理に残す人数を最小にしろ!」


『了解!』


シャワルが床へ風を流す。


第五地区を抑えている風とは別に、ごく細い流れを北へ伸ばす。


だが第七地区までは遠い。


途中には雪で冷えた通りがあり、建物があり、地下の経路も複雑に分かれている。


このままでは正確に拾えない。


「テオ」


「はい!」


「第七へ繋がる点検路は」


「北側に一本あります!」


「空気を通せるか」


テオが一瞬考える。


「遮断板を開けば。ただし第五の逃がし作業と同時になります」


「人は入れるな」


「分かってます」


技師へ指示を飛ばす。


「北点検路、遮断板だけ開けろ! 中には入るな!」


「了解!」


数秒後。


地下で何かが開く音。


冷たい空気が流れ込んできた。


シャワルの風が、その細い道へ入る。


第五から北へ。


さらに先。


第七地区の制御へ。


遠い。


だが、分かった。


「……まずいな」


グレンがこちらを見る。


「最後に入ってますか」


「ああ」


第七地区の制御は、もう自分で戻ろうとしていなかった。


揺れている。


ひびも進んでいる。


だが、弱った後に持ち直す動きがない。


あとは壊れるだけだった。


「何秒」


シャワルが尋ねる。


グレンは第七へ通信する。


「切り離しまで何秒!」


『最低四十五!』


「住民は!」


別の担当が叫ぶ。


「三十七人!」


シャワルは右手を見た。


第五地区を握っている。


左手は空いている。


以前なら、考える必要もなかったかもしれない。


二つ止めればいい。


だが今は違う。


一つでも、身体へ残る負担は大きい。


二つなら、単純に倍では済まない。


それでも第七地区は待ってくれない。


「シャワルさん」


ニナの声だった。


いつの間に戻ってきたのか、入口に立っている。


シャワルの右手を見る。


次に表示板を見る。


何をしようとしているのか理解したらしい。


「二つやる気ですか」


「ああ」


「身体が――」


「知ってる」


「倒れたばかりでしょう」


「それも知ってる」


声を荒らげるつもりはなかった。


ニナも止めたいだけではない。


それは分かる。


「ほかに方法は」


ニナがグレンを見る。


グレンは即答しなかった。


テオへ向く。


「第七を外から切れないか」


「無理です!」


「供給だけ落とす」


「今落としたら、戻る時にまた同じことになる可能性があります!」


「戻さなければ」


「第七だけじゃなく、その先まで落ちます!」


「避難は」


「間に合いません!」


一つずつ潰す。


何か別の方法があるなら、シャワルに二つ持たせる必要はない。


だが、今はない。


グレンがシャワルを見る。


「第七もお願いします」


「分かった」


ニナが目を閉じた。


一度だけ。


すぐに開く。


「なら、こっちは私たちが早く終わらせます」


引き止めるのをやめた。


「何人」


グレンが尋ねる。


「歩けない人を私が見ます。車両を第七へ二台回してください」


「三台出す」


「第五の避難は?」


「もう最後の車列だけだ。二台残せば足りる」


「分かりました」


ニナは振り返る。


「救助員二人借ります!」


「四人連れていけ!」


「多いです!」


「雪だ!」


「……分かりました!」


走って出ていく。


シャワルはその背中を見送らなかった。


第七の最後から目を離せない。


左手を上げる。


その瞬間、右腕へ掛かっていた重さがさらに増したように感じた。


実際に第五が強くなったわけではない。


二つ目へ意識を分けたせいだ。


右。


第五地区。


左。


第七地区。


距離も条件も違う。


どちらも壊れかけている。


シャワルは息をゆっくり吐いた。


第七地区へ通した風が薄く広がる。


制御魔術の最後。


そこへ、一枚の層を置く。


透明な風。


頁の端のように、一瞬だけ白く見えた。


第七地区からの音が、伝声具を通して途切れた。


『……落ちない』


誰かが呟く。


シャワルは短く答えた。


「止めた」


二つ目だった。


その直後、膝が沈んだ。


「シャワル!」


オルドが腕を掴む。


いつの間にか横へ来ていた。


「触るな」


「立ててねえだろ!」


「膝が曲がっただけだ」


「それを立ててないって言うんだ!」


椅子を引かれる。


シャワルは抵抗しなかった。


座っても魔術は変わらない。


むしろ立ち続ける理由がない。


オルドが椅子の背を押さえる。


「何かできるか」


「できない」


「即答するな!」


「お前が俺の手を持っても、風は増えん」


「分かってる!」


分かっているのだ。


だからオルドも手を出せない。


シャワルの右手も左手も、空中に上げられている。


触れば邪魔になる。


「なら別の仕事しろ」


オルドがこちらを見る。


「何だ」


「第五を早く終わらせろ」


数秒。


オルドの表情が変わった。


「ああ」


それだけ言って、テオの方へ向かった。


「西の逃がし路、俺も見る!」


「オルドさん?」


「昔そこ触った! どこまで流せるか知ってる!」


「じゃあ来てください!」


二人が地図へ走る。


それでいい。


グレンは時間を確認する。


「第七、住民残り!」


「三十一!」


「第五の車列!」


「あと二分!」


「テオ!」


「第五の逃がし、あと四十秒!」


ばらばらだった数字が、少しずつ減っていく。


シャワルはそれだけを聞いていた。


右手が熱い。


左手は逆に冷たい。


指先の感覚が薄くなっている。


二つを同時に抑えるというのは、二箇所へ同じ魔術を置くだけではなかった。


第五が最後へ押してくる。


受ける。


第七も押す。


受ける。


第五が少し緩む。


第七へ意識を戻す。


その間に第五がまた進む。


どちらも完全には止まっていない。


壊れかけたまま、最後だけを越えさせない。


「二十四!」


グレンの声。


第七地区の残り人数だった。


「歩ける人は全員出た!」


別の隊員。


「残りは高齢者と負傷者です!」


「車両は!」


『到着しました!』


ニナの声が伝声具から響く。


『歩けない人から乗せます!』


シャワルは目を閉じそうになった。


すぐ開く。


「あと何人だ」


誰に聞いたのか、自分でも分からなかった。


グレンが答える。


「二十四です」


「多いな」


「減らします」


「頼む」


それだけでいい。


第五地区。


「逃がし路、開きました!」


テオの声。


「西へ流します!」


オルドが叫ぶ。


「一気に開くな! 二割から!」


「二割!」


表示が動く。


シャワルの右手へ掛かっていた力が、ほんの少し軽くなる。


「三割!」


さらに軽くなる。


「北側車列、あと一分!」


グレンの部下。


第五を離せる条件が少しずつ揃う。


「四割!」


テオ。


「ここまでだ!」


オルドが止める。


「それ以上は西が受けきれん!」


「分かりました!」


無理をしない。


シャワルは右側の風を確かめた。


まだ離せない。


だが、さっきよりずっといい。


第七地区。


『一人目乗せた!』


ニナ。


『二人目!』


グレンが尋ねる。


「残り!」


「十八!」


時間が遅い。


いや、自分がそう感じているだけかもしれない。


一秒ごとに、二つの最後が手を押してくる。


シャワルの呼吸が荒くなる。


オルドが戻ってきた。


「顔色悪いぞ」


「元からだ」


「嘘つけ」


「今喋らせるな」


オルドが口を閉じた。


それでも離れない。


横に立っている。


何もできないくせに。


だからこそ、そこにいるのだろう。


「第五、車列抜けました!」


声が上がった。


グレンが即座に確認する。


「北側経路、無人?」


「確認!」


数秒。


「無人です!」


テオが表示を見る。


「西への逃がしも安定!」


オルドがシャワルを見る。


「第五、離せるぞ!」


シャワルは右手の向こうを見る。


新しい魔力の流入は、西へ逃げている。


北側は空いた。


第五地区そのものはもう救う必要がない。


「終わらせる」


右手を下ろした。


薄い風が一枚、消える。


直後。


遠く地下で、鈍い破砕音。


第五地区の古い制御が完全に壊れた。


表示の一つが消える。


だが、西側へ逃がした魔力は荒れない。


北へも流れない。


誰も傷つかない。


「第五、破断!」


テオが確認する。


一度だけ表示を見る。


「影響なし!」


オルドが息を吐いた。


シャワルは右手を膝へ置いた。


一つ終わった。


左手はまだ上がっている。


一つになった瞬間、身体が少し軽くなる。


それでも安心はできない。


第七地区は、第五よりずっと遅れて避難が始まった。


「残り!」


シャワルが聞く。


グレンが答える。


「十二人!」


シャワルは左手を見た。


十二。


それなら数えられる。


「なら十二人出るまで持たせる」


グレンが一瞬だけこちらを見る。


「できるんですか」


言ってから、自分で気づいたらしい。


以前なら、そこから答えを待っていた。


シャワルは少し笑った。


「できるかじゃない」


左手の風が震える。


「今離したら終わる」


グレンの顔から迷いが消えた。


「第七!残り十二!全員出すぞ!」


声が飛ぶ。


一人。


『負傷者一名、車両へ!』


十一。


二人。


夫婦らしい老人が同じ車へ乗る。


九。


三人。


歩けるが足元が悪い。


救助員が両側につく。


六。


「走らせるな!」


グレンが何度も言う。


焦って転べば、かえって遅くなる。


シャワルもそれを聞いている。


急げ。


でも雑になるな。


何十年も現場で聞いてきた矛盾だった。


救助とは、だいたいそういうものだった。


『残り四!』


ニナの声が荒い。


走っているのだろう。


『一人、家から出たがらない!』


グレンが伝声具を取る。


「理由!」


『犬です!犬が見つからない!』


一瞬だけ、詰所が静かになった。


シャワルの左手が震える。


オルドが顔をしかめた。


「今かよ……」


グレンは怒鳴らなかった。


「犬は救助員が探す! 本人を先に出せ!」


『嫌がってます!』


「ニナ!」


『聞こえてます!』


「本人を車へ!」


『分かりました!』


短いやり取り。


シャワルは何も言わない。


助けたいものは人によって違う。


家。


荷物。


犬。


それを馬鹿だと切り捨てても、人間は動かない時がある。


ただ今は、本人を先に出すしかない。


数十秒。


『乗せました!』


「残り三!」


別の声。


『犬も見つけた!』


誰かが叫ぶ。


詰所の何人かが、思わず息を吐いた。


オルドが小さく笑う。


「よかったな」


シャワルもほんの少しだけ口元を動かした。


「あと三だ」


笑っている場合ではない。


一人は作業員だった。


最後まで設備停止を手伝っていたらしい。


「自分で歩ける!」


残り二。


次は、脚を痛めた女。


担架へ。


残り一。


「最後は!」


グレンが叫ぶ。


返事がない。


「第七、最後の一人!」


雑音。


シャワルの左腕が沈む。


オルドが一歩出る。


「まだか!」


『確認中!』


長い。


風の膜が大きく撓んだ。


第七地区の制御は、本来ならとうに壊れている。


もう何度「最後」を押しつけてきたか分からない。


シャワルは左肘を右手で支えようとした。


右腕もまともに力が入らない。


それでも手首の下へ添える。


「シャワル」


オルドの声。


「黙ってろ」


「まだ何も言ってねえ」


「言う顔してる」


「顔を見る余裕はあるんだな」


「ある」


嘘だった。


伝声具が鳴る。


『いました!』


ニナ。


『子供です!一人で倉庫に入ってました!』


「意識!」


『あります!』


「歩ける?」


『歩けます!』


グレンが即座に返す。


「連れて出ろ!」


『はい!』


シャワルはそれだけを聞いた。


子供。


歩ける。


なら、あとは距離だけだ。


数秒。


十秒。


もっと長かったかもしれない。


風の向こうで最後が押す。


一度。


二度。


三度。


そのたび、左手が震える。


「第七!」


グレンの声。


『通りへ出ました!』


「危険区域の外まで!」


『走ります!』


「走らせるな!」


グレンが怒鳴る。


『……歩かせます!』


周囲で小さな笑いが漏れた。


シャワルは笑えなかった。


今は息をする方が大事だった。


『越えました!』


ニナの声。


「全員?」


『全員です!』


グレンは確認する。


「第七地区、危険区域内の住民ゼロ?」


別担当。


「ゼロです!」


「作業員!」


「全員退避済み!」


「救難隊!」


「区域外!」


条件が揃う。


グレンがシャワルを見る。


「離せます」


シャワルは左手を下ろしかけた。


「待て」


テオが叫ぶ。


「第七、ただ壊すと次の供給路へ跳ねる!」


シャワルの手が止まる。


「何秒」


「二十!」


テオが地図を掴む。


「逃がしを開けます!」


グレンは何も言わない。


また二十秒。


シャワルは左手を上げたまま待つ。


テオとオルドが並んで表示を見る。


「ここだ!」


オルドが一本を指す。


「昔の排出路が残ってる!」


「生きてます?」


「昨日確認した!」


「開けます!」


「半分までだ!」


二人の声が重なる。


表示が変わる。


第七地区から別方向へ魔力が抜け始める。


「三割!」


「まだ!」


「四割!」


「そこで止めろ!」


テオがシャワルを見る。


「今です!」


シャワルは風の向こうを確かめた。


押してくる力が減っている。


壊れた後に行く場所もある。


これなら終わらせられる。


「離すぞ」


誰も止めなかった。


左手を下ろす。


風が消えた。


第七地区の制御が完全に破断した。


低い音が、雪と風の向こうから届く。


表示が一つ消える。


別の表示へ魔力が移る。


揺れる。


だが保つ。


テオが確認する。


「排出路、安定!」


グレンが聞く。


「周辺被害!」


「報告なし!」


「負傷者は!」


「避難時の軽傷だけです!」


ようやく、誰かが大きく息を吐いた。


シャワルも息を吐いた。


そのまま椅子の背へ身体を預ける。


左手が膝へ落ちる。


両方の指が震えていた。


「シャワル」


オルドが前へ来る。


「聞こえてる」


「何も聞いてねえ」


「ならいい」


「よくねえ」


視界が少し狭い。


だが、意識はある。


前に倒れた時とは違う。


今はちゃんと自分が疲れていることを分かっている。


「ニナ呼ぶぞ」


「第七にいる」


「戻ったら診せる」


「そうしろ」


「何でお前が命令する」


「今のお前より元気だからだ」


それは否定できなかった。


グレンが伝声具を置いた。


「第五、第七とも住民退避完了。設備破断後も周辺への拡大なし」


確認するように言う。


「二地区、対応終了」


シャワルは表示板を見る。


赤い灯りが二つ消えている。


終わった。


二つとも。


自分が壊さなかったわけではない。


永遠に残したわけでもない。


人が出るまで待たせ、壊れていい条件を他の人間が作った。


だから最後には離した。


「何人だった」


シャワルが尋ねる。


グレンが眉を上げる。


「何がです?」


「第七。俺が二つ目を止めた時」


「三十七人です」


「そうか」


「そのあと十二人まで減りました」


「ああ」


十二という数字だけは覚えている。


十二人出るまで持たせる、と言った。


全員出た。


ならいい。


外ではまだ冬嵐が続いている。


終わったのは、この二地区だけだった。


グレンは表示板の残りを見る。


「今夜はまだ、ここを空けられません」


「分かってる」


シャワルが答える。


オルドが横から睨む。


「お前は帰る」


「今の状態で雪の中出す気か」


「ここで寝ろ」


「それは帰るって言わん」


「細かいな」


「技師だろ」


「元だ」


いつもの返しだった。


シャワルは少し笑った。


笑えるなら、まだ大丈夫だと思った。


だが立ち上がる気にはならなかった。


二つの最後を同時に抱えるのは、もう二度とやりたくない。


それでも、もしまた同じ場所に立って。


そこに人が残っていて。


自分しか止められなければ。


たぶん同じことをする。


その考えまで無かったことにする気はなかった。


だからこそ、その時が来る前に、周りにはもっと早く終わらせてもらわなければならない。


シャワルは赤い灯りの消えた表示板から目を離した。


「次が出る前に、休ませろ」


グレンが一瞬驚いた。


オルドはもっと驚いた。


「お前から言うのか」


「悪いか」


「いや」


オルドが椅子をもう一つ引き寄せた。


「進歩したな」


「七十四に言うな」


シャワルは背を預ける。


誰かが毛布を持ってくる。


断らなかった。


外では風が鳴っている。


第五地区も。


第七地区も。


もうシャワルの手の中にはなかった。


それでよかった。

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