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『皇国戦記ヴァーミリオン 〜されど男は鉄の棺桶で笑う〜 』―旧式機兵で挑む、圧倒的劣勢の極寒遅滞戦―  作者: ざびお
第一章 遅滞の冬

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第15話 敗残兵の誇り

ザスタヴァから北に臨む、アレクサンドロフスクへ続く帝国輸送路から、植民地で増産された兵站を運ぶ初の輸送隊(オボース)が向かってきていた。

アレクサンドロフスクを発って四日。大小さまざまな三十台のソリが、五つずつ連結され、踏み固められた雪の道を一列になって滑り込んでくる。連結されたソリを牽くのは北領特有の重輓馬で、一組につき二頭ずつの馬が、丸太のような四肢で力強く雪を踏みしめながら、相当な重量であるはずの連結ソリをすいすいと引っ張っていた。その手綱を握っているのは帝国の兵ではなく、占領地の村から出された皇国の馭者たちであり、その脇を、火器を持たぬ従卒たちが監督として歩いていた。重輓馬を扱うことは帝国では難しく、皇国民の協力なくして、この輸送を実現することはできなかった。


それは、アレクサンドラの統治の順調さを物語っていた。もはや、帝国のために働くことを、皇国民たちは苦としていなかったのである。

ザスタヴァの北門に輜重の列が着いたのは、夜が明けて二時間ほど経った頃であった。


ソリには帆布が掛けられ、そのうち、ひときわ大きな二十台のソリには、鉄のドラム缶が横倒しのまま隙間なく詰められていた。一台につき十六本。缶を縛っているのは麻縄ではなく、干した茎を綯った粗い縄であった。

残りのソリには皇国由来の冷凍された魚を始めとした食糧や、衣料品や薬といった上質な生活品が麻袋に入れられ積まれていた。


やがて積み下ろしの作業が始まり、従卒たちが帆布を剥ぎ、木の斜路を渡して缶を転がし降ろしていく。鈍い音が雪堤に跳ね返り、時折馭者が肩をはねさせたが、重輓馬はどこ吹く風であった。これが冬でなければ、雑草でも食んでいたであろう落ち着きであった。

兵站を預かる従卒長が、降ろされた缶を一本ずつ検めていく。缶の胴には緑の刻印が押されていた。査察機関の認証を示す印である。この印のない液体を機体へ注いだ者がどうなるかは、ここにいる従卒の誰もが知っていた。従卒長は印を確かめ、次に白墨で書かれた受領番号を読み上げ、帳面へ写した。番号の下には、皇国の字も刻まれていた。缶を出した村の名であった。


ドラム缶の口金をわずかに緩めると、甘く饐えた匂いが漂う。検品を完了させると、従卒長は、基地内への積み込み作業の指示を始めていく。

三百二十本の缶は、いまだ屋根の戻らぬ格納庫の跡地へ運ばれ、雪を掻き出した地面に整然と並べられていった。そこから少し離れた位置では、改修工廠の火が朝から煌々と燃えていた。


食糧などの生活品も、同じように検品され、こちらは倉庫のほうへと運ばれていく。

燃料を積んでいたソリには空のドラム缶を詰め込み、食糧の荷を降ろしたソリには、代わりに空の麻袋が畳んで積み替えられていった。袋やドラム缶は村へ戻る。次の分を詰めるためである。袋の底には粒が残っていた。一人の従卒がそれを手のひらで受け、掃き集め、重輓馬の飼い葉桶へ落として、重輓馬の前まで運んでやった。重輓馬は鼻を鳴らしてそれを食べた。


これら一連の動きを監督していた従卒長が、手元の書類に記録を書き込んでいた。

少しずつだが確実に、帝国の兵站難は現地での生産という形で解消されつつあった。


帝国を凍えさせていた極貧の冬は、雪解けを迎え始めていた。


---


ザスタヴァで撤退の際に自爆処分されたのは格納庫と機密設備だけであったため、そのほか現存している部分はそのまま利用していた。爆破の余波で損傷した箇所は、今も修理工事が行われていた。また、皇国は帝国と比較し電気工学が進んでおらず、暖房設備も薪ストーブや暖炉を主としていたため、暖房設備の改築工事も並行されていた。もはや、皇国基地としての面影はその外観だけにとどまり、中身は帝国へと着実に作り替えられていた。

そのうち、兵舎の一棟が捕虜の収容に充てられている。


岡田正孝少尉と、彼とともに捕らえられた九名の兵が連れてこられてから、二日が過ぎていた。

聴取は既に三度行われた。通訳を挟み、情報将校が卓の向かいに座る。岡田が答えたのは姓名と階級だけであった。あとは何を問われても口を開かなかった。皇国軍では、情報の流出は軍規によって固く禁じられていた。


情報将校は、岡田が何も口を割らなくても机を叩かず、声も荒らげなかった。決められた時間が来ると記録を閉じ、席を立って出ていくだけであった。

ある時、自身を尋問する情報将校たちに、一度ザスタヴァの中を見ないかと誘われた。そこで初めて、岡田は皇国の皇国カムイ第二防衛基地が、「ザスタヴァ」と呼ばれていることを知った。


提案の理由を問うと、彼らは気分転換だと言っていた。他の捕虜たちの待遇も知りたかったため、岡田は素直にそれに応じた。

兵舎を出て、彼らに連れられ基地内を散策すると、ザスタヴァでは常にどこかしらで工事が行われていた。いくつあるとも知れぬリツァーリを格納するための格納庫の拡張工事や、工廠施設の増強など、どうやら彼らにとって、ザスタヴァはまだまだ基地としては物足りないらしかった。


その工事作業に、労務として捕虜たちが出されていた。岡田のほかに連れられた九名は、とっくに尋問を終えているらしかった。彼らも何も喋ってはいないようだった。どうやら、今現在尋問されているのは岡田一人だけのようだった。

岡田たちのほかに、カラホトが落ちた頃から捕らえられている者が七名いた。彼らはどうやらカラホトからここに連れてこられていたようである。捕虜交換を見据えての配慮かもしれないと、岡田はそう思った。それは短絡的な思考であり、この戦時中の囚われの身である岡田の心が、多少なりとも摩耗し始めていることの証左であったのかもしれない。


労務の作業自体は過酷な肉体労働ではあるものの、扱いは決して悪いものではなかった。多少なりとも精神的な消耗もあり、痩せてはいたが、十分な食べ物は与えられているように見える。身にまとう衣服も、決して上等とは言えないかもしれないが、襤褸では決してなく、清潔なものを着ていた。

捕虜たちは凍傷の痕が黒く残った指でスコップを握り、掘り出した雪をソリへ積んでいる。岡田は、皇国製のソリなどの運搬道具が様々な場所で使用されているのを見た。なるほど、やはり彼らはこのソリに目をつけ、軍事利用したらしい。


その発想自体は皇国の機体開発において、一度真剣に議論されたものではあった。しかし、機体とソリを結びつける機能や推進力を得る方法を用意できず、結果、揚力晶を足に埋め込む方針で開発が進められたのだ。

岡田は、帝国が皇国の断念した技術を実現できるだけの高い工学力を持っているという、その事実を改めて痛感した。


労務を監督する下士官らしき者は、誰も捕虜を虐待しなかった。休憩の時間が来れば作業は止み、湯が配られた。作業中に負った傷はきちんと手当てを受けていた。

しばらくすると、数十人の男たちが現れた。いずれも軍服ではなく、皇国に広く流通する衣類を身にまとっていた。つまりは皇国民であった。


岡田は顔が引きつることを止められなかった。


「彼らはいったい何をするんだ?」


岡田は情報将校に問いかけた。通訳が帝国語で情報将校に話しかけ、返ってきた言葉を翻訳して岡田に伝えた。


「彼らは出稼ぎに来ています。基地の工事を手伝い、その労働量に応じて帝国製の防寒具の支給や軍医の治療を受けられます」


彼らは毎朝、ソリに乗ってやってくるのだという。帝国から支給された防寒具を着て、名簿に名を書き、掘り、運び、日が落ちる前に帰っていく。行った作業量は適切に記録され、それに応じて対価を受け取ることができる。帝国の金を受け取っても使い道はないため、代わりに帝国の進んだ暖房設備の提供や医療技術の恩恵を受けられるのだという。

つまり、彼らは帝国のために働き帝国の技術で己の暮らしを豊かにしているのだった。


岡田は胸が張り裂ける思いであった。

しばらく呆然と見つめていると、作業の遅れを咎める怒号が響いた。帝国の言葉ではない。皇国の言葉であった。怒鳴っているのは作業頭を任されているらしい皇国の男で、怒鳴られているのは捕虜であった。


「まともに仕事もできないのか!敗残兵め!」


それが止めであった。岡田は抑えきれず地面に崩れ落ちた。振り上げた拳が、したたかに地面を打ち付けた。


――まるで敗戦国ではないか。


我々はまだ負けていないはずであった。今もなお、帝国に抗いその命を燃やしているはずだ。それは誰のためだ。祖国だ。そしてそこに住まう民草のためだ。それがなぜだ。なぜ敗残兵なのだ。

彼ら捕虜たちは、この戦争の犠牲者だ。戦うことは許されず、ただ後退していく鎮台の中での落伍者だ。岡田とともに戦った者たちとて、味方を逃がすための生贄そのものだ。


それがなぜ、このような扱いを受けねばならない。誰のための戦いで、誰のための――。

悔しさと恥辱と、言い表せぬ全ての感情が瞳から零れ落ちていた。


やがて、落ち着きを取り戻した岡田は、立ち上がり周りを見渡した。捕虜たちは全員手を止め、岡田を見つめていた。皇国民たちは岡田を見て笑っていた。

岡田は、軍服の襟を正し、大きく息を吸い込んだ。


「注目!全員、集合ぉ!」


作業場に岡田の野太い声が響き渡った。捕虜たちは手にしていた作業用の道具を捨て、岡田の前に整列した。一糸乱れぬ、皇国兵らしい立派な動きであった。


「貴様らたるんでいるぞぉ!罰として、全員腕立て百回!始め!」


岡田の号令で、捕虜たちは腕立て伏せを始めた。大きな声で数を数えながら、文句の一つも言わずに動いていた。

なにごとかと、帝国兵たちが集まってきたが、誰もそれを咎めることをしなかった。情報将校も、じっとその様子を見つめていた。


やがて、腕立て伏せを終えると、彼らは立ち上がった。息を切らしていたが、膝をつくような真似はせずきれいに直立していた。

捕虜の一人が、号令をかけた。


「全員、少尉に敬礼!」


捕虜全員が、岡田に向けて敬礼を行った。軍服を着ていなくても、皇国兵としての存在感を放つ、圧倒的な敬礼であった。

岡田は一人一人の前に立ち、彼らの目をまっすぐ見つめ、敬礼を返していった。


彼らの瞳は語っていた。


――まだ自分は戦えます。


誰一人として、この地獄で戦意を失っていなかった。皇国兵としての誇りを保ち続けていた。彼らの瞳の奥にあるその炎を岡田は受け取っていった。

そうだ、まだ我々は負けていないのだ。


岡田は決意した。この者たちを、さらなる地獄へ突き落とすことを。戦地へ戻し、命尽きるまで戦わせることを。

守るべき民草に敗残兵とのそしりを受けてなお、立ち上がる彼らの誇りを守り通すことを。


「よし、全員解散!」


岡田の号令で、彼らは作業場の持ち場について作業を再開した。

その様子を、皇国民たちは冷ややかに見つめていた。中には、繰り返し敗残兵と嘲笑する者たちもいた。


しかし、彼らを笑う帝国兵は誰一人として存在しなかった。

岡田は、情報将校へ声をかけた。岡田の戦場は、これから始まるのだ。


「中へ戻ろう。私がすべて話す」


---


その夜、司令庁舎の参謀会議室に第一機兵師団の参謀将校たちが集められた。

作戦卓の上には、カムイ高原の縮尺地図が広げられている。白と黒の駒が、両軍の現在位置を示して大小さまざまに置かれていた。床を這う耐寒高圧ケーブルが電熱シートへ繋がり、室内は外の氷点下から切り離されている。


最上席には、アレクサンドラが腰を下ろしていた。その傍らにアンドレイ・エレンブルクが控え、壁際にはゲルマン・コルニコフ一等騎士が、タブン・シュトルムの隊長として立っていた。


「まず、現存する燃料ですが――」


最初に読み上げられたのは、現在の燃料の数であった。今朝到着した三百二十本の補給分と、ザスタヴァに残っていた分。三日間の訓練と先日の奇襲で失った量。整備主任が帳面を見ながら数を並べていく。


「現在、トロイカを使用してリツァーリが連続で稼働できる時間は一時間半です。合間にブースターを温存する断続的使用であっても、高速戦闘を維持するのであれば、二時間から二時間半ほどしか稼働できません」


トロイカに乗るリツァーリの燃料を満載にするには、ドラム缶十缶分を必要とした。つまり、二十機すべてを出せば、並べたばかりの缶は、一度で二百本が消える。


「二十機全てを投入できる回数は一度きりであり、おそらく作戦時間は二時間もありません。交戦地点までの距離によりますが、戦闘時間は三十分にも満たない可能性があります」


それは単純な結論であった。増産体制が整いつつあるが、依然として燃料の問題は大きく残っていた。


「次の輸送隊(オボース)は既にアレクサンドロフスクを出発し、到着は三日後となります。本日と同量の燃料が運び込まれます」


アレクサンドラは思案していた。

タブン・シュトルムを、精鋭五機ではなく全力で投入し、その記録を取りたかったのである。しかし、効果的な運用をするための策が思いつかなかった。


――さて、どうするか。


アレクサンドラが思考の海へ沈み込もうとしたとき、会議室へ、記録を抱えた情報将校が一人、入室した。


「捕虜の司令官が条件付きではありますが、口を割りました」


岡田という男の発言記録がまとめられた資料が全体へ配布された。記録には、通訳が書き取った音と、捕虜自身が書いたという皇国の字とが並べて記されていた。この卓を囲む誰にも読めぬ字であった。

翻訳された帝国語の文を読むと、そこには、皇国軍において最も警戒すべき主力戦力についての記載があった。名を海燕隊と呼ぶようであった。


「カイエンタイ?ああ、燕(ラストーチカ)か。確か、あの白昼に狙撃を行った機体にも、その印があったな」


一人の参謀が呟くようにそう言った。情報将校がさらに付け加える。


「ええ。それと、吹雪下での奇襲を行ったのが、まさしく彼らであるようです」


参謀たちは一様に唸り声をあげた。確かに、この部隊が目下、帝国の脅威であることは間違いないらしかった。


「それで、あの男の名は?」


アレクサンドラは、まるで知りたかったのはそれだけであるかのように問うた。


「はい。例の狙撃手はクジョウツグミというそうです。驚くことに、新兵であると」


それは衝撃の事実であった。にわかには信じられないことである。

ゲルマンもまた、驚きを隠せぬ声を漏らした。


「あのトゥポーイが新兵?信じられませんな」


「しかし、ゲルマン卿。嘘ではないようです。オカダは覚悟を決めて話したのですから」


それはゲルマンも理解していた。昼間の騒動を彼も見ていたのである。

敵ながら称賛に値する光景であった。トゥポーイと侮っていた彼らの誇りをまざまざと見せつけられたのだ。


帝国騎士たちの、皇国兵に対しての印象は少しだけ変わりつつあった。


「それと殿下。オカダは話すための条件として、捕虜交換ですべての捕虜を解放することを望んでいます。残りはその確約を得てから話すと」


「よい。その条件を飲む。私も昼間の騒動を見ていた」


アレクサンドラもまた、岡田や捕虜たちに対して敬意を持って接することを決めていた。アレクサンドラは軽く手を振って情報将校を下がらせると、また何かを思案し始めた。

アンドレイだけは、彼女が先ほどとは違う思考に沈んでいることに気づいた。あの狙撃手のことを考えているのであろう。


アンドレイは、彼女の代わりに会議を前に進め始めた。

地図の上へ手を伸ばし、皺の寄った指を敵の隊列ではなく、東側へと置いた。


「まず、タブン・シュトルムを五機、前回の渡河地点へ向かわせよう」


帝国が今、一番成し遂げたいことは敵の砲列を崩すことであった。あの壁を攻略するための兵器は手元にあるが、一番懸念すべきは、先ほど捕虜よりもたらされた海燕隊の存在であった。


「おそらく、敵が対抗できる兵力はその部隊だけ。であれば、まずはそやつらを東に引き付ける」


つまり東の五機は囮であった。皇国からしても、側面攻撃は必ず阻止しなければならない。ましてや、それがタブン・シュトルムであればなおのこと放置はできないだろう。


「そこで、やつらと戦闘を開始したら、正面から残る十五機で攻撃を仕掛ける。やつらの砲列の火力と練度を確認しておきたい」


ゲルマンはアンドレイの作戦に納得を示した。


「ゲルマン卿。戦闘の刻限は、囮部隊が四十五分、本隊が三十分ほどだ。その刻限を守れ。たとえ突破できようと、深入りはせず、威力偵察だけ行うと心得よ」


アンドレイの厳命に、ゲルマンは臣下の礼を返した。


「はい、アンドレイ参謀長。拝命いたします」


トロイカの試験運用は始まったばかりである。戦闘限界を見極めるためにも、与えられた時間以上の戦闘は避けねばならなかった。

また、当然敵に奪われることなどもってのほかである。


「では、ゲルマン卿。早速準備にかかれ」


ゲルマンはアレクサンドラに向けて一礼をすると、会議室を後にした。

アレクサンドラの瞳は、いまだ見ぬ敵だけを見つめているようであった。


---


整備ドックでは、整備士たちが出撃準備に奔走していた。二十台のトロイカと、リツァーリがそれぞれ頭を揃えて並べられている。従卒たちが電動ポンプでドラム缶からリツァーリの背部タンクへ燃料を移し、移し終えた缶を転がして外へ出していく。別の組はトロイカの電磁ロックの端子の通電を確かめ、後部可動キールの遊びを一台ずつ指で押して見ていた。

ゲルマンは、ミハイルとともに東へ向かう四名の名を読み上げた。


選ばれたのは、いずれも三日間の訓練で蛇行の制御を最後まで崩さなかった者たちであった。速い者ではない。引き際を見切れる者である。血気に逸る若い騎士は一人も入っていなかった。

名を呼ばれた四名が列を離れ、ミハイルの後ろへ回った。残る十四名はゲルマンの側に残った。


「ミハイルよ。囮部隊の指揮は貴様に任せる」


ゲルマンがミハイルに告げた。ミハイルは獰猛な笑みを返した。


「ゲルマン卿、感謝します。必ずややつの首を持ち帰ります」


ミハイルは騎士の礼をゲルマンに行った。


「だが、忘れるな。戦闘の刻限は四十五分。決着がつかずとも、必ず戻るのだ。騎士としての本分を忘れるな」


ゲルマンの厳命に、ミハイルは大きくうなずいた。


「それとな、やつの名前はクジョウツグミというそうだ」


仇の名を知ったミハイルは、薄く笑みを返すとほかの四人を伴い踵を返し、自身の機体へと向かった。

ゲルマンはあえて、嗣巳が新兵であることを伏せていた。それを知っては、この作戦でミハイルが己を失うであろうことを理解していた。


それは、矜持の高いミハイルには一生伝えるべきではないのかもしれなかった。


---


夜はひっそりといつもの顔で明けた。

ザスタヴァの前に、十五機のリツァーリが出ていた。リツァーリはいずれも長方形の厚い鉄板に乗り、積雪に沈み込むことなく、雪の上に静かに浮いて直立していた。


すでに夜明け前のうちに、重輓馬にトロイカを牽かせる形で、ミハイルたちの別動隊は東の地点へ出発していた。燃料の節約を行うためである。

やがて、ミハイルたちの交戦を知らせる通信が送られてきた。


ゲルマンは円錐槍(クリューク)を天へ掲げて号令をかける。


「いざ行かん!我らが命を捧げよ(ジーズニ・ザ・ダーチ)!」


『アレクサンドラ(ソンツェ・ザ・)のために(アレクサンドラ)!』


十四機が応じ、ブースターが点火され、南へと進軍を開始した。それは、皇国の敷く銅色の城壁を破る、破城槌に他ならなかった。


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