緋桐という花
緋桐という花は緋色の小さな花が咲き、桐の葉に似ていることから付けられた名前だ。
「長年生きてきたけど、俺様と同じ名前の花があるのは知らなかったよ」
多分知らないだろうなとは思っていた。この花の花言葉を考えたら、私は緋桐様が……緋桐様こそ絶対幸せにならなければいけない。私は素直にそう思った。
「緋桐の花言葉は愛、情熱、誠実……そして」
緋色の花とその葉の形から生まれた花言葉があともうひとつ、それこそ緋桐様が生きて幸せにならなければいけないと思った理由。
「幸せになりなさい……です」
そんな花言葉を持つ花の名前の緋桐様が、幸せになっていけないわけがない。
「きっと緋桐様の名前を名付けた方は緋桐様が幸せになってほしいと思って付けた名前なんだと思います、私はそう思います」
私は緋桐様のことを見つめつつ、そっと緋桐様の手に自分の手を重ねる。少し冷たい手から少しの温もりを感じる。幸せになることに権利も何も必要ない。それを幸せかどうか決めるのは自分であると同時に、幸せなんて心が勝手に感じてしまうものだから……。ならその幸せを与えるのは私でありたい。そう強く願う。
「緋桐様……私は緋桐様を愛してます」
そう静かに告げると、私を強く抱きしめる緋桐様。
その肩は微かに震えている。私は優しくもしっかり緋桐様を抱きしめ返した。
「そんなこと言われたら、俺様……本当にお前を手放せなくなるぞ……」
むしろ手放してほしくない。緋桐様の側にずっといたい。今の私は素直にそう思っていると自信を持って言える。最初からはまるで想像もできないけれど……。
きっと生贄に選ばれた私に、こんなこと言っても信じてくれないだろうな……。とそう思う。
「私はずっと緋桐様の側にいたいと言ったはずですが……」
「馬鹿か!言っとくけど俺様は重いし、独占欲も強いぞ!いつか俺様なしじゃ生きられねぇくらい壊したくなるかもしれない……俺様の側にいるってことはそういう覚悟も必要なんだぞ……」
そんなこと心配しなくても……。私は緋桐様の頬に添えて、真っ直ぐ目を見つめて言う。
「……私、心配しなくても……もう緋桐様なしの生活なんて考えられませんから……」
「お前……本当に馬鹿だな……」
緋桐様はそう言うと、少し涙を浮かべて、また私を強く抱きしめる。最初は彼のことは怖くて怖くてたまらなかった。でも緋桐様の性格や優しさを知ったら、怖いなんて思わなくなった。それ以上に孤独で、繊細な人だ。きっと友達が遊びに来ていたとしても、心の何処かできっと孤独を感じていたはずだ。じゃないとこんな風に泣いて、私に縋るように抱きしめてはこないはずだ。自分のことを強いと自覚している彼が。
「言っとくけど、もう逃げられねぇからな」
逃げるつもりもないけど、多分逃げようとしてもこの人が本気を出せば、すぐに捕まってしまうだろう。
その感情は最初から変わっていないのですが……。
「私、最初来た時に逃げても無駄だと思うとも言いましたよ?」
「馬鹿か、それとは桁違いなんだよ」
緋桐様の金色の瞳が私を捉えて、離さない。
「本当にもう、どこにも行かせないからな」
そう言うと、私に口づけをする。
「んっ……」
少し長く口づけられ、少し戸惑ってしまったが、ゆっくりと唇を離す緋桐様。
「駄目だ……これ以上続けてたら止まんなくなる……」
止まらなくなるって……つまり……そういうことなんだろうか……?それはさすがに……まだ心の準備ができてない……。
「悪いな、急かすつもりはないんだけど俺様もほら……妖であっても一応男だから」
「は、はい……」
顔を逸らしながらも、私はそう一言返すのがやっとだ。でも……そういうこともしたいって……思っているっていうこと……だよね?私だって興味がないと言ったら嘘になるし……。緋桐様となら……いつか……とも思ってしまったりする。そんなこと伝えたらはしたない……と思われるかな……?
「その、まだ心の準備はかかりますが……緋桐様となら……いつかは……」
そこまで言うと緋桐様は私の肩をがしっと掴んで至近距離で私を見て言う。
「頼むから俺の理性を試すこと言わんでくれっ……!お前のその言葉で俺の理性もうギリギリで保ってる状態なんだ!」
「は、はい……」
緋桐様ってたまに一人称が「俺様」から「俺」に変わるときがある。多分混乱したときとか動揺したりするとときに「俺」になってることが多い気がする。なんてことを今考えるべきではないのかもしれないけど……。すみません、緋桐様……。緊張感ないことを考えてしまって……。
「俺、お前を怖がらせたくないからさ……」
でも、やっぱり……緋桐様が幸せになっちゃいけないなんて、そんなのは間違ってる。こんなに優しい人なんだから。緋桐様だって幸せになっていいはずだ。
例え彼が幸せを拒んだとしても、その度に私は何度でも何度でも伝えよう。
「緋桐様……」
「あ?なんだよ……」
「緋桐様が幸せになってはいけない……なんてこと、言わないでください」
私は緋桐様に幸せになってほしいということを何度でも伝える。緋桐様のことを愛しているから、愛してる人の幸せを願うのは当然のことだもの。私はそう願うほどこの孤独で繊細な妖である緋桐様を、誰よりも愛してる。




