緋桐の過去
お昼、起きた化け猫達が帰った後、緋桐様が言っていた滝の方に行くと、とても幻想的な滝の光景。こんな場所村では見ることがなかったからつい圧倒されてしまう。
「すげぇだろ?」
「はい……すごく……」
つい釘付けになってしまうほどにすごい光景……。こんなすごい光景を前にしているけれど、私には他にも気になっていることがある。それは緋桐様の過去だ。緋桐様は元々は人間だと言っていた。人間の頃はどうしていたのか、どんな風に過ごしていたのか……そして、どうして妖の姿になってしまったのか……。ずっと気になっていた。今の関係ならもう少し、踏み込んでいいんじゃないかと……そう思った。
「緋桐様、私……緋桐様の過去が知りたいです」
「俺の?」
緋桐様はまるで「?」の形が頭に出ても不思議はないくらいの顔をしている。こんな顔も出来るんだ……とかそんなことを思ってる場合ではない。
「はい、緋桐様のこともっと知りたいんです」
「いいけど……面白くねぇぞ?」
「そ、それに私のことを話したのに不公平です!」
ずっとそれも考えていた。私は色々話したのに緋桐様のことを聴けないのは不公平なのではないかと。私は……ちゃんと体だけでは意味がないの、心だって隣にいたい。
「それもそうか、んじゃとりあえず座れよ」
あっさりと納得して座ることを促されて大人しく私は座る。緋桐様も座ると滝を眺めながら話し出す。
「俺様が元々人間だったことは話したよな?俺様は呪いかけられたんだ、その頃の友人の好きな女から告白されてその告白を断ってさ……それで逆恨みされた」
大昔から色恋沙汰の話ってあるんだなぁ……。それで呪いをかけるなんて極端にも程があると思うけど。そんなの緋桐様は何も悪くないじゃない。
「……私には理解できません、誰かに恋をして告白を受ける受けないなんてその人の自由なのに……それに私だったら……嫌です、好きでもないのにその想い人の友人のために付き合うとかそういうのは嫌です」
付き合うのであれば……ちゃんと好きになって付き合いたい。気持ちがなくちゃそんなことされたって気づいた時、きっと辛くて虚しいだけだ。ならば、最初から断ってくれる方が全然いい。
「それに私そういう人って、好きな人のことを一番に想ってる自分に酔ってるって見えて嫌いなんです」
私がそうきっぱりと告げると緋桐様は笑い始めた。
「やっぱお前最高だわ、くくっ……そんな答え返されるとは思わなかったぜ」
そしてしばらく一緒に過ごしていても未だに緋桐様の笑いのツボがよく分からない。私は大真面目に答えてるつもりなんだけどなぁ。
「でもこの呪いにかかって妖になったの今はそれほど悲観してないんだ」
「?どうして……ですか?」
私がそう問いかけると私を優しく見つめて優しい声色で、静かに告げる。
「お前に……桔梗に会えたからだよ、こんだけ長く生きてなきゃお前に出会えなかった」
「私も……です、生贄である贄姫に選ばなければあなたに出会えなかったので……今はそれほど悲観してません」
そう言うと、緋桐様は優しく私に口づけをする。どうやら私は緋桐様の口づけに弱いらしい。だって、拒めないんだから……。むしろ、私をそれほど求めてくれることが嬉しいとすら思ってしまうくらいだ。少し長い時間口づけを交わしていたが、さすがに苦しくなり胸を叩くと、唇を離してくれた。
「はぁ…はぁ…」
「悪い、苦しかったか?」
苦しくない方がおかしいです!ていうかなんでそっちはそんな涼しい顔していられるんだろう……。私は顔から火が出るのではないかと思うくらい顔が暑いのに!不公平というか緋桐様には敵いそうにない。
「でも最近になってたまに思うんだよな、俺様こんなに幸せでいいのかなって……」
そう言われて私は意味が分からず首を傾げた。幸せと思ってくれるのは素直に嬉しいけど、なんでそんな幸せになってはいけないみたいなこと思ってしまっているのか……。
「俺様はお前と同年代くらいの女を何人も食ってきた、そんな何人も食ってきた俺様がこんなに幸せを感じていいのか……」
……確かに彼は何人も人間を食べてきた人だ。でも私は彼が幸せになってもいいと思う。だって幸せになっていいか悪いかなんて、権利もなにもいらないし、幸せになりたいなんて普通に誰でも思うことだ。確かに彼に食べられた人も生きていれば、幸せがあったかもしれないけど……。そういう人物である人ほど、幸せになるべきだと思う。綺麗事などではなく、死んでしまったその人たちの分まで幸せになるべきだと私は素直にそう思う。でも、今そう思い悩んでる彼に何を言うべきか私は考える。あ、そうだ……。
「緋桐様……」
「……ん?」
悲しげな瞳を私に向ける。あなたにそんな顔をさせたくはない。あなたが私を救ってくれたように、私だってあなたを救いたい。それすら出来ないとそれこそ不公平だ。この話で少しでも、あなたの心を癒すことが出来れば……。
「緋桐という花をご存知ですか?」
私はひとつ息を吸い込み緋桐様を真っ直ぐに見つめて告げた。




