意外な一面
翌朝、目が覚めてぼんやりと考える。どうしよう……口づけされてからの記憶が曖昧だ……。しかも時計を見るとまだ5時……。何時に寝たのか分からないけど多分よくて5時間、遅くて3時間ってとこかもしれない……。口づけされてから記憶が曖昧だから何時に寝たのかも分からないっていうかなんで曖昧なんだろう……。そんな長い時間曖昧になるわけないのに口づけひとつで。
「桔梗!体調なんともないか!?」
大きい音を立てながら緋桐様が部屋に入って来た。
せめて扉の前で言ってください。一応ここ私の部屋ってことになっているんですから……。
「記憶が曖昧なこと以外は特に……」
「悪い……俺様の牙に毒があるんだったわ、お前の歯に牙が当たったのはわかってたんだが、その後お前気を失ってさ」
どうりでその後の記憶が曖昧なわけだ。じゃあかなり寝てたってことになる……ていうか毒って平気なんですか!?そりゃ私ピンピンしてますけど!そういえば毒蛇とかって毒で獲物を捕らえるんだったっけ?
「人間はすぐに食っちまうから知らなかったけど、少し程度ならあんまり害を与えないのか……不幸中の幸いだな……悪い、次から気をつける」
次からはって……じゃあ昨日の告白も口づけも、勢いではなかったと言うこと?
「は、はい……」
そのことに気づくと私はつい恥ずかしくなってしまい俯く。むしろ勢いの方がまだ恥ずかしなかったのかもしれない。
「なんだ?照れてんのかよ、可愛いな」
そんな楽しそうに、でも愛おしさもこもった目で私を見ないでくださいよ……と言いたいけど、恥ずかしさと緊張のあまりに声が出ないから、その意味をこめて、じっと緋桐様を見る。
「悪い悪い、からかったつもりはないんだけどな」
そう言って笑いながらも私に言う。でも、何も言わなくても視線だけで分かっちゃうんだ……。でも勢いじゃないとしたら本当に……?いまいち信じられないけど……。
「どうしたんだよ、もしかして信じてないのか?」
「え!ちょ!心を読まないで」
くださいよと言おうとした瞬間、唇を唇で塞がれた。
つまりまた口づけをされた。
「不安になったらその度にこうして取り除いてやろうか?」
「それは私の心臓が持ちそうにないのですが!?」
心臓が破裂してしまうんじゃないかと思うくらい今も心臓がうるさい。彼に聴こえてしまうんじゃないかと思うほどに。
「死なれたら俺様が困るわ」
笑いながらも言うけど私本当に死にそうなくらい今心臓うるさいんですよ?緋桐様って実は結構愛情表現が激しい……?こんな調子で私心臓持つのかな……?別の意味で心配になってきた。
「今日は滝の方にでも行ってみるか?春には崖上から流れてくる桜が風流感じるし、夏には水辺ってこともあって涼しいし、秋には紅葉が浮いてて、冬には凍って芸術作品みたいになる魅力的な滝だ」
へぇ……滝も季節によって色んな表情を見せてくれるんだな……。
「運がいいときは虹も見えたりするんだよ、夜は……ちょっと迫力増すから怖いかもな」
「そういえば緋桐様は蛇でありながら冬眠しないのですか?」
妖といえども、蛇である以上冬眠は必要な気がするけど、それって私だけかな……?
「んー、寝てる時間は長くなるけど、基本的には普通の人間と同じように冬もちゃんと活動してるぞ」
長くなる程度なんだ⋯⋯じゃあ本当に400年以上も前からほとんど1人きりの時間を過ごしてきたんだな……。そう考えると私はここに来てよかったと、今は本気でそう思う。もう彼を1人きりにすることなんてないから。
「まぁ体調平気ならちょい来てみ」
私は首を傾げながらも、言われた方に向かうと。
「この子が緋桐が言う子か?」
「ふぅん、風習になるだけあって綺麗な容姿してるな」
……なんか喋る猫がいた。
「可愛い奴だろ?でも惚れたってやらんからな」
そして恥ずかしいこと言ってるけど、今は人語話す猫が気になりすぎてどうでもよくなってる。
「こいつらは化け猫だ、化けるのは体力使うから大体猫の姿が多いけどな」
緋桐様がそう言うといきなり音と共に煙が出ると、美しい黒髪の青年がそこにはいた。
「ふーん、近くで見ると本当に顔整ってるなぁ、俺の妾にしてもいいくらいだ」
もしかして今いた化け猫の一匹?
「だからやらんつったろ、ぶっ潰すぞ」
そしてかなり物騒なことを仰る緋桐様。私を大切にしてくださるのは嬉しいですが、ぶっ潰すとか怖いこと言わないでください。聞いてるだけで怖いです。
「冗談だっつの、お前を怒らせたら本当に潰されかねないからな」
「少しでも手ぇ出してみろ、許さんからな」
緋桐様の瞳がまるで本物の蛇のようにギラギラしている。まるで獲物を見つけたがらがら蛇のよう。最初に会った時を思い出す目をしている。あの時は本当に怖かったなぁ……。あの頃がもう懐かしい……。などと怖い目をしている緋桐様を目にして過去に浸ってしまうなんて、あの時自分勝手に振る舞ったせいか度胸がかなりついてしまった気がする。そう考えていると化け猫が元の猫の姿に戻る。
「体力使ったからちょっと眠らせてもらうぜ、お前の部屋借りるぞ」
「俺も昨日はちょい寝不足なんで寝かせてもらうぞ」
「今日は俺様、お前らと寝る気はねーから、起きたらとっとと帰れよ」
そう言いながら化け猫を見送る緋桐様。それでも追い返したりはせずに、ベッド貸してあげるんですね。何だかまたあなたの新しい一面を見れた気がします。




