過去の話
その夜、私は緋桐様と再び花畑に来た。夜に見る花畑は、昼間とはまた違った美しさがあり、時間帯が違えば違う顔を見せてくれるんだな、と思った。
「月下美人はこっちにある花だ」
月下美人の花を見ると真っ白でまるで輝きを放っているようにすら見えるほど美しい。夜にしか見れないなんて、もったいないほど美しい花だなぁ。そう思いつつも空を見上げると、夜空は星が降るように無数の星が輝き、月が私達を照らす。
「夜は暗いけどその分星がたくさん見えて月が綺麗に見える、月の満ち欠けを見るのも中々面白いだろ?」
「星をじっくり見る機会なんてあまりありませんでした……」
そう言うと緋桐様は私に問いかけた。
「よかったらお前の過去の話、聞かせてくれるか?嫌だったら無理にとは言わねーけど」
「え……」
そんなこと言われるとは思わなかった私はついその質問について、きょとんとした顔をしてしまう。
「やっぱり嫌か……?」
「い、いえ!……平気です」
そして私は一呼吸おいて、自分の過去を話しだす。
「私の両親は所謂政略結婚で、愛し合って結婚したわけではないんです、ただの両家の利害の一致……」
ただ、あの2人は子供を作ることなんて考えてなかった。たった1度きりの一夜の過ちで出来てしまっただけの、望まれない子供……。それが私で、私は母親譲りの黒髪に、父親譲りの桔梗のような紫の瞳。だから私は父からも母からも愛されなかった。愛してない人の特徴を持ち合わせていたから。どれだけ私が利口でいても、両親は私を愛してくれなかった。そして、そんな環境を知ってか知らずか、周囲に私と親しくしようとしてくれる人は誰もいなかった。生贄の贄姫に選ばれたときでさえ、涙どころか、優しい言葉ひとつもかけてもらえなかった。誰からも愛してもらえず、友人も恋人もいない、村としては悲しみをひとつでも減らしたかった。だから今回の贄姫に私は選ばれた。そう言って私は自嘲気味に笑う。
「きっと……清々しい気持ちなんでしょうね、厄介ものがいなくなって……桔梗という名前もお祖父様がつけてくださった名前で……」
私の両親は、ただ私を産んで育てただけの赤の他人ような存在に過ぎない。そう言おうとすると、緋桐様が私を強く抱きしめた。突然のことに驚き、私が言葉を失っていると緋桐様は私に言う。
「今まで辛かったな……そんな奴らのこと気にすることない、今は俺がいるから……」
どうして……あなたがそんな辛そうな声を出すんですか……。どうして……、私を強く抱きしめた腕が震えてるんですか……。どうして私にそこまで優しくしてくれるんですか……。
「緋桐様……私の名前を……呼んでくれますか?」
「何度だって呼んでやるよ……桔梗、桔梗……桔梗……」
その声に安心する……彼だけは私を必要としてくれる……私が生きていることを、この人は……緋桐様だけは許してくれる……。誰にも愛されることのなかった私を……見てくれる。『香月桔梗』ではなく『桔梗』を見てくれる。
「桔梗は……とても幸せです……あなたにそこまで想ってもらえて……嬉しいです」
「当たり前だろ……お前は生きていてもいいんだよ、お前みたいな奴が愛されないなんてそんな世界が間違ってる」
親がいても、孤独で、辛かった私をあなたが必要と思ってくれるなら、私はあなたの側にずっといたい。例え、私の方が先に命尽きるとしても。その命尽きるまで彼の側にいたいとそう思った。
「緋桐様……緋桐様は私をどう思っているのか……教えてもらえますか……?」
ただの気まぐれで生かした暇つぶしをするための人間か、同居人かあるいは……。
「お前は俺の大切な奴だ……世界で一番大切にしたい人間だ……」
その言葉は期待してもいいんだろうか……。
「私は……私は、緋桐様のことが好きです……」
私は秘めていた想いを打ち明けた。恋するのは早すぎる、ましてや妖に人間が……なんて思うかもしれないが、それでも私はこの人を好きだと思うのには十分すぎる証拠が揃っていた。彼といると安心するが、ふとした時に胸が高鳴り、優しくしてくれると嬉しい。これが恋でないと言うのならなんだって言うんだろう。少なくとも私がこんな感情を持ったのは緋桐様しかいない。
「俺だって……好きだよ、お前のこと……気づかなかったけど、きっと毅然としたお前の態度を見たその時からずっとお前に惹かれてたんだと思う」
少し体を離して、私の目を真っ直ぐ真剣に見て緋桐様は言う。最初は怖くて震えそうなほどだったけど、今はどうしようもなく、あなたが愛しい。例え、人を食べていたという過去を持とうと、私は彼が好きだ。
「お前がよければずっと俺の側にいてくれ、俺はお前を悲しませるようなことなんてしない」
「……はい、私は……桔梗は緋桐様の側にずっといたいです、命尽きるその時まで」
私は少し涙を浮かべつつも笑顔で、緋桐様に堂々とその想いを告げた。そうすると緋桐様は再び私を強く抱きしめてこう告げた。
「これからは俺が愛してやるからな」
緋桐様はそう告げると、満天の星空の下、花畑の中で私に優しく口づけをした。




